昨年完成したデンカイノベーションセンター。
2015年に同社が100周年を迎えるにあたって企画された。
ここまでのプロセスを振り返りながら,現在どのように活用されているか,
プロジェクトリーダーを担当された尾形陽一氏(現・同社研究推進部長)に,
設計プロセスに携わった当社担当者が話を聞いた。
「化学反応」を起こす
「建物の耐震化や複数の研究施設の集約化などハードの改善が動機のひとつでしたが,それにくわえ,100周年事業にあたって新たな価値創造のためのイノベーション研究の拠点を築きたく,分野の異なる研究者を集め,いわゆるるつぼのなかで『化学反応』を起こしたいと考えていました」。
コンペを経て当社が設計を担当,3年ほどにおよぶ議論のなかでは,当社が提案したワークプレイスについてのアイデアやプランが,現在の業務体制に反映されているという。「オープンな空間を活かし,3つの研究所の各研究部門がそれぞれ入れ籠状に配され,異なる分野の研究者どうしがシャッフルされ交われる配置としました。それはスペースの関係で採用できなかったプランをベースにしています。建築のアイデアをソフトで活かしたわけです」。その結果,研究者のコミュニケーションの場をもたらし,技術発表会といった社内交流の回数が非常に増えたという。
想定以上の交流の場に
完成後のイノベーションセンターを訪れる来客数は従来の4倍ほどとなり,「こんなところで研究できるとは羨ましい」と嬉しい声を頂戴することも。来客者には顧客だけではなく,研究を行う大学生が研究内容や職場の見学に,技術系の同業企業が「研究所づくり」の見本にと,建物を目的にさまざまな方が訪れオープンな研究空間を見ていかれるという。また1階の展示スペースも充実しており,営業部門の製品プレゼンテーションの場としても活用されている。
「社外の技術者の方が多数訪れてくださり,技術交流や共同研究のきっかけに結びついています。正直,建物がここまで社外の方との交流の場になるとは考えておらず,想定以上の効果でした。
オープンなつくりのなかにもちょっとした思索の場が設けられていることで憩いや息抜きができるので,社員は心地よく使っているようです。まさに,創造性や,イノベーションの『ツール』として建物が活用されていると感じます」。尾形氏自身は,エレベーターを使わず階段を使い,中庭を眺めながらアイデアを浮かべることが多いのだそうだ。
一緒につくりあげること
「サクセムをルーバーにすることは難しいところもありながら,技術的なポテンシャルを見いだされた鹿島チームのおかげで,一緒に苦労しながらできました。
そうしたプロセスの一つひとつがワークプレイスづくりに役に立ちました。たとえば研究員の働き方などにいたるまで,空間づくりを超えて行った議論であったり,竣工した他会社さんの建物を見学させて頂いたりしてイメージが湧くなど,パートナーとして鹿島さんとまさに『一緒につくりあげた』建物だと思います。われわれの製品開発やものづくりと建物づくりには共通点があるのだとつくづく感じました」。