生産性向上のため,設計・施工から建物の維持管理までBIMを活用。
さらに一歩進んだ安全管理,品質管理へと広がる可能性をいくつかのフェーズで紹介する。
オービック御堂筋ビル新築工事
- [工事概要]
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- 場所:
- 大阪市中央区
- 発注者:
- 鹿島建設
- 設計:
- 当社関西支店建築設計部
- 用途:
- 店舗,事務所,ホテル,
駐車場,ホール(集会場) - 規模:
- S・SRC・RC造(制震構造)
B2,25F 延べ55,527m2 - 工期:
- 2017年5月〜2020年1月(予定)
(関西支店施工)
完成の暁には御堂筋最大級のランドマークとなる
データの一元管理で生産性を向上
大阪のメインストリート御堂筋に面したオービック御堂筋ビルは,3〜13階がオフィスフロア,高層エリアとなる15〜25階がホテルフロア,2階に多目的ホールや貸会議室を完備し,新たなビジネス拠点として期待されている。設計施工を担う当社は,基本設計段階からBIMを導入することにより,実施設計図面の「着工時不整合ゼロ」を目標として取り組んだ。
BIMは,建物の3Dモデルとデータベースを融合させたシステム。企画から設計,施工,建物管理に至る情報を一元管理し,目的に応じてさまざまなデータを抽出・活用しようとするものだ。各フェーズでデータを重複して作成する必要がないため,生産性の向上を図ることができる。さらに,BIMは発注者や設計者,施工者といった多くの関係者間でリアルタイムに情報共有することができ,プロジェクトを一体的に推進するコミュニケーションツールとしても活躍する。
基本設計から実施設計でのBIM活用
意匠・構造・設備の各基本設計段階においては,ひとつのモデルを共有することで,設計図面などの整合性検証がスムーズに行えることを目指した。一例を挙げると,地下階にフラットビーム(扁平梁)を採用するため,意匠と構造担当者が3Dモデルを確認しながら機械式駐車装置と躯体の納まりなどの調整を行った。
実施設計段階では,屋上から地下までほぼすべてのフロアをBIMモデル化し,実施設計図に落とし込んだ。たとえば,オフィスフロアにおいてはBIMの数量拾い機能を用いて,経済的な基本モジュールの決定やメンテナンススペースを確保した納まりの検討など,通常では施工図レベルで行うような検討を重ねていった。また,BIMにより,各種設備機器や操作スイッチなどのすべてに属性情報を付加した総合プロット図を作成,画面上での仕様の確認を可能とした。上層階のホテルエリアでは,BIMモデルによる客室用配管ユニットのバーチャルモックアップを作成,メンテナンス性や将来更新スペースの確認を行うことで顧客とのスムーズな合意形成が可能となった。

意匠・構造・設備の整合性検証の例

地下階フラットビーム採用のための調整

客室用配管ユニットのバーチャルモックアップ(左)と
実際にでき上がったもの(右)
VR活用や気流シミュレーションにも
施工段階では,施工図チェック,意匠確認,工事進捗の見える化,シミュレーションによる性能評価などにもBIMが使われた。
たとえば,現場で採用する製品決定のプロセスにおいては,エントランス意匠のVR※活用により,取り付けるライトの光度の変化や光の映り込みなどを,ホロレンズ(ヘッドマウントディスプレイ)を着用して確認。また,最適な制気口やダクト位置の納まり検討にはBIMモデルを用いた気流シミュレーションを行った。ホロレンズを着用すれば,現場で気流を可視化して確認することができる。
さらにはBIMの拡張利用として,玉掛け作業やバックホウ運転などの安全教育用VR,スマートフォンでAR※アプリを利用した周辺地域への情報発信なども行った。
※VR(Virtual Reality)は仮想現実,AR(Augmented Reality)は拡張現実と訳され,後者は実際に見える空間に仮想データを可視化させる(『ポケモンGO』のような)もの
エントランス意匠確認用VRで映り込みなどを確認

ホロレンズを用いた天井内の配管チェック

BIMモデルを用いた気流シミュレーション
BIMは建物すべての
データベース
北村浩一郎 所長
この現場のさまざまなフェーズでBIMを活用し,社内外から大きな反響をいただいています。
現場を見ていただければわかるのですが,まず現場加工で出るゴミがかなり少ない。これはBIMにより着工前に設備設計を徹底的に行い,プレファブ化(あらかじめ工場で部材を組み立てること)し,ユニット化して検査まで完了させてから搬入,現場では可能な限り取付けのみの作業としたことで,とてもクリーンな環境となったからです。BIM導入による効果は,設計施工ばかりでなく,建物完成後の維持管理においても現れてくるはずです。たとえば,主要な設備機器には二次元コードを付けています。これにより,メンテナンス時期や異常時の機器コードなどが確認でき,維持管理が容易になります。
BIMをその建物すべてのデータベースと捉えています。つまり,設計・施工・維持管理に至るどのフェーズ,シーンにおいてもデータを活用できるということです。そのためには,BIMにそのままデータを取り入れられるような工業化・規格化が必要です。データ付の電子カタログの作成など製品・部品メーカーの協力も不可欠となります。
BIMの良さは,体験した人でないとわかりません。これからも社員や協力会社の方々への普及に努めていきたいと思います。
後ろは,BIMモデルによりバーチャルモックアップを作成し,プレファブ・ユニット化して搬入した客室用配管ユニット