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Message 鹿島スマート生産が担う建設現場の未来

建築管理本部副本部長
伊藤 仁 常務執行役員

ビジョン策定の目的

「鹿島スマート生産ビジョン」策定の目的は2つあります。ひとつは建設就業者不足への対応,もうひとつは働き方改革の実現です。

現在,建設現場においては,週6日の作業が一般的です。その4週4休の休日環境を4週8休にしていきたい。なおかつ,作業員さんの収入を製造業と同程度まで高めていきたいと考えています。そのためには,現場での生産性を3割向上してもらうことが必要となります。また,社員についても月80時間の残業時間を45時間に減らす。今回,2025年を達成目標にこのスマート生産ビジョンを策定しましたが,上記の課題をスマート生産の実現により成し遂げようというものです。

なお,このビジョンでは,ワーク(作業)とマネジメント(管理),エンジニアリング(生産プロセス)それぞれのコア・コンセプトを掲げています。

図版:3つのコア・コンセプトを表すロゴ

3つのコア・コンセプトを表すロゴ

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「作業の半分はロボットと」

作業については,半分はロボットと一緒に行います。マスコミへの発表の際にいちばん多かった質問が,作業員は半分になるのか,というものでした。そうではなくて,今建設現場で行われている全ての作業をリストアップしてみると,ロボットでできる,あるいはロボットと作業員が協働してできる作業が半分あるということです。もちろん高度な判断を要する作業や高い技能を要するものは引き続き人が担うべきです。一方で,比較的要求精度が低い作業や厳しい環境下での作業はロボットに支援してもらいたいと考えています。

たとえば,現場ではさまざまな資機材が移動を繰り返しており,そこに多くの人手がかかっています。この移動自体に高い精度を求められることは少ないのでロボットに任せる。壁をつくったり,床を仕上げたりといった,建物をつくり上げるうえで本質的に必要な作業に人がより注力できる環境をつくっていく。それが,このコンセプトに込められた想いです。

「管理の半分は遠隔で」

品質を確保するために人が現場で実際に行わなければならない確認作業や,人と人とのコミュニケーションは継続して大事にしていきたい。一方で,現状の管理業務を見直してみると,実際に現場に行かなくてもできるものもあるのではないか。たとえば,作業が予定どおり進捗しているか,翌日の作業エリアに不要物が残っていないか,現場内の表示看板が適切に設置されているか,など。もちろん,優秀な管理者は管理のポイントを押さえることで無駄な移動を減らしていますが,テクノロジーの力を借りることで,さらに効率的で質の高い管理手法を追求していきたいと思います。

また,当社では,国内で常時300件を超える建築現場が稼動しています。各現場の進捗状況や技術課題などを常に現場と支店・本社が共有できる情報共有システム「PitPat®」を構築しています。また,作業間連絡調整システム「Buildee」は,協力会社の労務繁忙状況を全国規模でリアルタイムに共有し,労務のひっ迫に対する組織的な対応を可能にしています。このように現場を支店・本社が一体となって支援する体制を構築することで,顧客への安心感や付加価値を高めていくことも生産性向上策のひとつであり,ビジョンの目指すところだと考えています。

「全てのプロセスをデジタルに」

原点に立ち返って「建物を建てる」とはどういうことかを考えてみると,それは何百万というパーツを組み立てることだといえます。そのパーツ情報を全てデジタル化することで,より高い次元で生産プロセスを変革できると考えています。

このたび,ビジョン推進のため新たに2つのモデル現場を決定しました。ひとつめの現場では,現場で組み立てる主な資機材全てにIDを付与することで,品質管理(トレーサビリティ)や搬出入管理(ロジスティクス),進捗管理(工程の見える化)など,施工管理の質とスピードを高めていきます。また,出来高管理や請求業務など事務作業の効率化にもつながると考えています。

もうひとつの現場では,協力会社やメーカーとのBIMデータ連携の強化を進めていきます。建設生産には非常に多くの関係者がかかわりますが,BIMを基軸としたデータ連携を進めることにより,作図やもの決めの迅速化,製造や施工における手戻りや手待ちといった無駄の削減につながります。さらに,竣工後の建物管理においても,メンテナンスに必要な情報として活用することができます。

BIMについて私は5Dと捉えています。3Dデータに「数量」と「時間軸」という次元を追加することで,生産性向上の可能性が格段に高まります。これまで大変だった積算業務もBIMデータがあれば効率的に行えます。そのためには,データ連携のための標準化や規格化などの仕組みづくりが重要です。標準化が進むシンガポールでは5,000m2以上の建築確認申請にはBIMデータの提出が既に義務付けられています。そういった建築にかかわる一連のプロセス全てをデジタル化し,共有することが今後重要になると考えています。

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施工計画支援ツール
「smartCON Planner®

仮設資機材の配置ツールと施工計画の支援機能を搭載したARCHICAD専用のアドオンソフトウェア。仮設計画の3Dモデルを素早く作成し,施工検討を視覚化することで生産性の向上に貢献する。

(当社グループのグローバルBIM社がツールを提供)

図版:施工計画を完全に視覚化した3Dモデル

施工計画を完全に視覚化した3Dモデル

競争と協調が活力を生み出す

国交省主導による建設キャリアアップシステムが本年4月から本格運用しています。当社は業界に先駆け,当システムとの連携を可能とする現場入退場管理システム「EasyPass」をパートナー企業とともに開発しました。また,前述した作業間連絡調整システム「Buildee」は,もともと当社が開発・運用していたものを外部企業に委譲し,広く同業他社にも使ってもらえるようにしたものです。いずれも多くの反響をいただいていますが,今後,これらのシステムが業界標準になれば,職長や作業員のみなさんが,当社以外の現場でも使い慣れた環境で使用することができるようになります。

競争と協調が活力を生み出すといわれます。品質などコアになる部分に関しては各社競争し,共通で利用するツールなど協調できるところはオープンにしていくことを,これからの建設業界全体として考えていく必要があります。

建設キャリアアップシステム

建設キャリアアップシステムは,技能者一人ひとりの就業実績や資格を登録し,技能の公正な評価,工事の品質向上,現場の効率化などにつなげることができるシステム。登録した技能者にはICカード(建設キャリアアップカード)が配布され,業界統一のルールで情報が蓄積される。2019年4月から運用がスタートした。

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現場入退場管理システム
「EasyPass」

現場に設置されたカードリーダーに「建設キャリアアップカード」をかざすと,入退場時間や職種,立場などの情報が専用システム「EasyPass」に自動送信。技能者の業務情報を「見える化」することで現場運営全体の効率化を図る。

※本システムは,建設キャリアアップシステムを運営する建設業振興基金より,「就業履歴データ登録標準API連携認定システム」の第1号(民間システムとの連携)として認定された

図版:試験運用状況

試験運用状況

図版:EasyPassと建設キャリアアップシステムとの連携イメージ

EasyPassと建設キャリアアップシステムとの
連携イメージ

人と技術が建物をつくる

3つのコア・コンセプトを表したロゴにはそれぞれ「HUMAN」「TECHNOLOGY」「DIGITALIZATION」という言葉が埋め込まれています。われわれが建物をつくるためには,人と技術がこれからも中心であることに変わりありません。この両輪の質をデジタル化によってスパイラルアップしていきたいという想いを表しています。

これからの若い人たちにとって,建設業がより魅力にあふれ,夢のあるものにしていきたい。これが鹿島スマート生産ビジョンで実現したい理想の姿です。

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