設計施工プロポーザルで,BIM主体による設計説明とBIMを活用した現場運営方針が高く評価された。
着工前仮想竣工により,施主との合意形成などに取り組み,生産性向上を目指す。
日東電工茨木事業所
東地区事務所棟建設計画
- [工事概要]
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- 場所:
- 大阪府茨木市
- 発注者:
- 日東電工
- 設計:
- 当社関西支店建築設計部
- 用途:
- 事務所,展示スペース
- 規模:
- S造 B1,4F 延べ9,433m2
- 工期:
- 2019年6月〜2020年3月(予定)
(関西支店施工)
完成予想パース
設計から施工までのBIMが評価
日東電工は,光学フィルムや樹脂テープ,半導体向け製品などを製造し,世界各地で事業を展開する企業。昨年,大阪府茨木市の同社新事務所棟建設にあたり,設計施工者選定のコンペが実施された。
当社は,設計から施工まで一貫してBIMを活用する方針のもと,設計初期段階から施工担当者が参画するなど多くの関係者が一体となり,同時に「つくり込み」を行うことを提案した。プレゼンテーションでは,他社が模型を使用しての説明だったのに対し,当社はBIMを主体にしたムービーを活用。設計および施工中の施主との合意形成の進め方など,BIMを用いたメリットを強調した。その結果,設計提案やコストだけでなく,BIMによるプロジェクト運営やプロセス手法が高く評価され,当社が設計施工に決まった。
プレゼンテーションで使われた
建物外観(上)と内観(下)
フロントローディングの実際
本工事ではBIMを活用することでフロントローディングを推進した。これは,従来の施工を進めながらそのつど設計を見直して品質を高めていくという方法ではなく,設計段階で検証やシミュレーションを何度も行い,これまで施工段階で行われてきた作業を設計段階で完了させようとするものである。
さらに,BIM上で意匠・構造・設備までを相互調整のうえ統合し,着工前に完成させる「仮想竣工」を目指した。以降では,仮想竣工に至るまでの作業の流れを説明する。
BIM導入から
仮想竣工までの流れ
1. 基本計画段階
BIMを導入するにあたり,まず同じ関西支店で行われていた「オービック御堂筋ビル新築工事」のBIM戦略会議の流れに沿い,BIM戦略チームを立ち上げた。メンバーは,BIM活用のリーダーとなるBIMマネージャーのもと,意匠・構造・設備の各設計者,現場所長,設備担当者,施工図担当者,サブコン担当者である。

BIM戦略会議 関係者が一堂に会して,BIMの検討を行う。問題点の共有,不整合点の討議を月2回のペースで実施し,問題を解決していく
2. 基本設計段階
基本設計から図面作成,データはクラウドで情報共有。詳細の納まり検討,寸法チェックを行い,施工性を考慮したディテールを設計図に反映した。
モデリングや図面作成,進行のサポート役となるBIMコーディネーターは,現場で更新されたBIMを施工計画に反映。各図面をBIMに統合し,不整合点を抽出,会議で議論・調整を行った。
BIMによる変更の確認は,施主を交えた設計定例会議でそのつど行い,基本設計がほぼ固まった段階での内容を施主に対して説明,進行の承認を得る。基本設計が完了したところで支店での「つくり込み会議」を開催,設計者を交えて問題点の抽出・討議を行った。その結果,さまざまな調整・変更が行われ,実施設計段階へ引き継がれた。

つくり込み会議 基本設計段階では屋上が折板屋根だったが,支店のつくり込み会議において下階の断熱性と防音性が討議され,実施設計段階では性能が上回る鋼製断熱サンドウィッチパネルの上にシート防水貼りへと変更された
3. 実施設計段階
工程ごとに施工計画を立案(①)。構造の基本設計図が完了後,鉄骨BIMを作成した(②)。外装と鉄骨の納まりや,鉄骨と意匠の統合モデルと設備データなどを重ね合わせ干渉をチェック(③,④)。設計者,サブコンと解決方針や納まりを討議した。さらに,BIM干渉チェックソフトで相互の図面間干渉位置をリスト化(⑤)。相互調整のうえ,意匠,鉄骨,設備の納まりを確定(⑥)。
実施設計段階の各ステップ

①施工計画 ステップごとの施工計画を立案し,施工検討を実施

②鉄骨BIM作成 BIMソフトを用いて作成。鉄骨のパネルゾーン,スプライスプレート,ガゼットプレート,ボルトまで詳細に表現,設備貫通可能位置を色分け

③外装と鉄骨の納まりチェック 意匠と鉄骨のBIMデータを重ね合わせ,屋上,外装,バルコニー周りのアルミパネルやカーテンウォールの取合いをチェックし相互調整を行う

④鉄骨・意匠の統合モデルと設備データの重ね合わせ 天井内設備と意匠・鉄骨のデータを重ね合わせて干渉をチェック

⑤天井内設備干渉チェック 干渉チェックソフトにより,各種設備の干渉箇所が自動的に図面付きでリスト化される

⑥干渉の相互調整のうえ確定 相互調整を行い,意匠,鉄骨,設備の納まりを確定させる
4. 契約段階
実施設計完了後,調整・修正・追加の最終情報を精算見積図としてまとめ,BIMによるプレゼンテーションを行い,施主の承認が得られた。契約交渉では,変更要望に対し図面を修正のうえ,契約図を発行し,施主と契約締結。
5. 工事用図面段階
契約図に基づき,BIMデータから詳細検討された主要協力会社による施工BIMや設備のプロット情報を統合し,調整のうえ精度の高い工事用図面を作成した。
6.「仮想竣工」で完成
当初の目標どおり,細かい点を除き着工前にBIMによる仮想竣工が完成した。
既存上屋解体後の起工式の際,来訪者にBIMで作成した仮想竣工の様子をホロレンズやスマートデバイスを使用して披露。ARにより,近隣のマンションや住宅がそのまま背景として表示,そこに竣工後の本建物の姿が映し出され,来訪者には具体的にイメージできたと高く評価された。

ホロレンズやスマートデバイスによる
仮想竣工のイメージ
既存建物解体後の更地に,新しい建物が実際に建っているように見える
BIM活用の
フロントローディングが
当たり前に
法貴 慶人 所長
私は2012年から4年間,アメリカにあるオースチン社(当社海外現地法人)に出向し,メキシコの設計施工の案件に従事しました。そこではBIMが設計ツールとして当たり前のように使われており,とても刺激を受けました。いずれ日本でもBIMによる設計が定着するものと考えていましたが,2016年に帰国したとき,日本では,BIMは部分的には使われているものの,まだ先進的な利用はされていませんでした。同じ関西支店のオービック御堂筋ビルで設計段階からBIMを導入していると聞いて,早速ヒアリングに行きました。そこでの活用事例を参考にし,所長として任された前現場では小規模ながらBIMを導入し,着工前フルBIM化仮想竣工を試みました。その結果,とてもスムーズに竣工することができ,現在でもクレームひとつなく,満足していただいており,BIM活用の有効性を確認することができました。
BIMを活用したフロントローディングの各段階では,施主と合意形成を取りながら問題点の解決や新たな要望を組み込んでいくことができるため,非常に効率化が図られ,実際の施工の手戻りを未然に防ぐことが可能となります。
現在,当現場では,既存建物の解体工事が終わり,仮想竣工のもといよいよ着工です。BIMによるフロントローディングのメリットを最大限に活かし,生産性を向上させ,“仮想”から“リアル”な竣工を目指します。