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特集 オール鹿島で築く プロジェクトマネジメント

図版:大鵬薬品工業 北島工場 固形剤棟

大鵬薬品工業 北島工場 固形剤棟
固形剤棟では業界初の生産機の導入を含む高度な技術力で,品質・生産効率の向上と従業員の安全性の確保,および省人化を同時に実現している

図版:大鵬薬品工業 北島工場 CTM棟

大鵬薬品工業 北島工場 CTM棟
CTM棟では小規模からパイロット製造までの幅広い製造スケールに対応するフレキシビリティの高い施設をつくり上げた

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大鵬薬品工業 北島工場 固形剤棟

場所:
徳島県板野郡北島町
発注者:
大鵬薬品工業
設計:
当社関西支店建築設計部
生産・物流・水処理設備:
当社エンジニアリング事業本部
用途:
製剤工場
規模:
SRC造一部S造 5F 延べ18,038m2
工期:
2012年2月~2013年4月

(四国支店施工)

大鵬薬品工業 北島工場 CTM棟

場所:
徳島県板野郡北島町
発注者:
大鵬薬品工業
設計:
当社関西支店建築設計部
生産・水処理設備:
当社エンジニアリング事業本部
用途:
治験薬工場,研究施設
規模:
S造 4F 延べ7,090m2
工期:
2015年3月~2016年5月

(四国支店施工)

医薬品製造施設の
エンジニアリング

エンジ本部が設立当初から力を入れている医薬品製造施設は,異物や他の医薬品成分の混入を防止するため,厳しい製造・管理基準が定められている。大鵬薬品工業 北島工場(徳島県板野郡北島町)では,2013年に同社の主力抗がん剤製造のグローバル拠点となる固形剤棟が,2016年には創薬のための治験薬製造の拠点であるCTM棟が,いずれも当社の設計・施工で竣工した。この一連のプロジェクトでは,エンジ本部が所有する高度なノウハウと,社内外の多くの関係者を統括するマネジメント力が活かされた。現場を担当した四国支店建築部高田祐司グループ長は,エンジ本部の果たした役割についてこう振り返る。

「これまで複数の大学や企業の研究所および生産施設の施工に関わりました。施設運用の細部まで考慮しきれていない工事では,工事途中や完成後に,運用面での問題が発生し,変更や改修工事が必要となったことがありました。一方で,エンジ本部とともに取り組んだ本件は,同部の担当者がお客様からの要望を正確にとらえ,設計部と一緒に迅速に対応し,工事担当者へは医薬専門分野の技術指導も行っていました。その結果,現場が顧客要望を理解したうえで,高品質の施設をつくることができたのです」。

写真:高田祐司グループ長

高田祐司グループ長

コンセプト構築から
アフターケアまで

医薬品製造施設の計画では,原料から製品に至るまで,物資の取扱いに細心の注意が求められる。それゆえ一企業内でも製造,品質管理・保証,物流,工務などの部門によってさまざまな要望が提示されることになる。エンジニアリング担当者には,これらの要望を本質的に理解し,ソリューションを導き出す能力が要求される。提案入札であった同工場の固形剤棟において,当社のプランは,入札時提案から骨子を変えることなく竣工を迎えた。このことは,最適解をいち早く導き出すエンジニアリング力の高さを裏づける好例といえる。

入手決定後もエンジニアリング担当者は,基本構想の立案や事業の計画といった初期段階から,EPC,引渡しまで一貫して顧客の窓口として関わり続けた。現在でも,技術的な相談や定期的な意見交換会などのアフターケアを継続している。

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所属を越えた社内連携

同工場は効率的な生産,研究活動を支えるため,複数の医薬品を同一設備で生産する「マルチパーパス固形剤工場」の実現という,難易度の高い施設。そのため,当社は社内の複数部署と専門家からなるプロジェクトチームを編成し,一丸となって取り組んだ。エンジニアリングは東京,設計は関西支店,現場は四国支店と拠点が離れていたので,顧客ニーズの充足のみならず,統一感のある設計とするため,設計方針をチーム内で共有することを重要視した。

具体的には,プロジェクト全体を管理するプロジェクトマネージャーのもと,エンジニアリングマネージャーが設計フローと設計成果物を一元管理するとともに,設計方針を明確化。所属の垣根を越えてプロジェクトチーム全体で進むべき道とルールを共有できる体制とした。このことがチームメンバー間の信頼と密なコミュニケーションにつながり,それぞれがプロフェッショナルとして担当部分を仕上げていった,まさに「オール鹿島」でつくり上げたプロジェクトとなった。

ライフサイクルにわたる
エンジニアリング

四国支店営業部の大河直人担当部長は「医薬品施設営業では,製造や規制情報など専門的なご相談をお客様から受ける場面も少なくありません。そんなとき,エンジニアが同行して直接お客様に説明することで,適切なソリューションを提案できています」と,営業の場面でのエンジ本部の活躍について語る。

また,引渡し後のアフターケアにおいても,エンジニアが直接顧客の話に耳を傾けることで,実際に使用して生じた課題や相談事のなかに新たなニーズを発見し,次の提案へつながる場面もある。エンジ本部の専門性は施設のライフサイクル全体で発揮されている。

写真:大河直人担当部長

大河直人担当部長

Column

医薬品製造施設を支える
鹿島の技術開発

エンジ本部では技術開発にも積極的に取り組んでいる。当社が業界に先駆けて確立した独自技術のひとつ「高薬理活性物質を取り扱うマルチパーパス工場の設計および評価手法」は,医薬品製造施設に実際に設置した機器やテスト用機器での検証を通じ,収集・分析したデータをもとに開発された。

その後,この手法をベースとして,世界初の高薬理活性製造対応の生産機器および生産システムを開発,バージョンアップを重ねている。大鵬薬品工業 北島工場の2棟は,まさにこの手法を活用してさまざまな課題に取り組み,成功させた事例だ。

高薬理活性物質の封じ込め技術

高薬理活性物質とは,抗がん剤や抗生物質など,微量でも人体に影響をもたらす物質のこと。製造過程において成分が拡散し,作業員や環境,製品を汚染してしまわないよう,特に高度な封じ込め技術が求められるものだ。

封じ込めの効率的な実現には,製造機器,製造室,工場建物のそれぞれのバリア機能を熟知し,合理的に組み合わせる必要がある。総合建設業として培ってきたノウハウとエンジニアリング力を併せもつ当社は,この高薬理活性物質を含む製品を複数品目取り扱う医薬品製造施設の建設に,大きな強みをもっている。

施設に合わせて技術をカスタマイズ

封じ込め技術は医薬品製造には欠かせない一方で,過剰な仕様や設備投資はコストの増加を招くだけでなく,作業性やメンテナンス性を悪化させる場合もある。またひと口に「高薬理活性物質対応」といっても,全ての工場が同じ製造,運用方法となることはなく,取扱物質によってリスクのレベルも異なるため,最適解は一律に設計できるものではない。

「高薬理活性物質を取り扱うマルチパーパス工場の設計および評価手法」では,取扱物質の物質特性をもとに潜在的リスクを特定し,施設での取扱量,各製造プロセスにおける製造内容などの総合的な評価を行う。この評価を設計の起点にし,建築,建築設備,生産設備,物流設備,情報設備の設計を進めることで,一貫性がありながら,工場の特性に合わせた最適解を導き出している。

製造機器の性能検証

また,当社では施設建設後の性能テスト手法も構築。大鵬薬品工業 北島工場ではこれらの手法を活用したうえで,最新の業界情報から適切な生産機器を選定。望ましい仕様の生産機器がない場合には,開発機の製作も行った。加えて,模擬装置の製作や実装後の動作テストといった検証も実施。顧客ニーズを的確にとらえた施設づくりを実現した。

図版:高薬理活性物質封じ込め用秤量アイソレーター

高薬理活性物質封じ込め用秤量アイソレーター。
機器側面の穴に取り付けられたグローブに手を入れて作業することで,原料飛散のリスクから作業員を守る
(固形剤棟)

図版:国内で初めて導入された爆発放散口のない流動層造粒乾燥機

国内で初めて導入された爆発放散口のない流動層造粒乾燥機。トラブル時にも原料の拡散を防ぎ,従業員と環境,双方の安全を確保している
(固形剤棟)

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