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首都直下地震が発生 私たちの使命とは

防災の原点は,「自分の身は自分で守る」ことである。日頃から地震災害に備え,訓練などを通して災害対応力を高め,地震発生時には,まずは自分と家族の身の安全を守る行動が必要となる。そして,私たちは自社の震災復旧活動に参加し,建設業の社会的使命を果たさなければならない。ここでは,首都直下地震が発生したと想定し,ある仮想社員の行動をモデルケースに,当社の震災対策を紹介する。

家族の安否と自宅での備え

3月5日(土),東京都江東区で所長としてシールド現場を率いる東京土木支店の赤坂(仮名)は休暇を取り,東京都中央区の月島にある自宅にいた。朝7時,ドーンと突き上げるような強い揺れに襲われ飛び起きる。自宅は超高層マンションだが,ゆっくり長く揺れる感じではなかった。「震源が近い首都直下地震だ。それも相当に大規模なもの。東京が大変なことになる。妻と娘は?うちの現場は大丈夫か?」。キッチンから悲鳴に近い声がする。床を這いながらキッチンに行くと,二人は震えながらテーブルの下にいた。朝食の用意をしていたようで,沸騰した鍋が落ち,床に転がっている。“地震だ火を消せ”は昔の標語で,今は“地震だ身を守れ”だと聞いていたことが,大火傷から身を守ったのだ。携帯の緊急地震速報を確認するとマグニチュード7.3,震源地は東京南部。家具の転倒防止対策を念入りにしていなければ,タンスに押し潰されていただろう。食器棚のなかは散乱していたが,扉の自動ロックがかかり食器が飛び出してくるのを防ぐことができた。赤坂は,備えの大切さを実感するとともに,何より,家族にケガがなく無事だったことに胸をなでおろした。

その後,非常時の備蓄品や防災用品,非常持出品,地図を取り出した。停電していたのでラジオで状況を確認する。ちょうど,内閣総理大臣が非常事態宣言を出したところだった。東京を最大震度7の直下型地震が襲い,都心南部は広範囲で震度6強,津波の心配はないと伝えていた。ワンセグテレビも見ることができた。老朽化した建物が倒壊し,多数の要救助者が発生している模様だ。現場が心配だが電話がつながらない。現場勤務中の部下にメールを送る。電気は止まっていたが,携帯やスマートフォンでインターネットは使えたので,「鹿島従業員安否システム」に自分と家族の無事,住居可能,出社可能であると登録をした。公共交通機関は止まり,車は使えない。しかし,現場に行かなくては。「エレベータは止まっている。これからは停電が続き,メールは遅延,水道や下水も利用できないと思った方が良い。困ったことがあれば指定された避難所に行くように」と妻と娘に言い,家族間の連絡方法を再確認した。後ろ髪を引かれたが,自分用の非常持出品と地図を持ち,7時半過ぎ,現場へとマウンテンバイクで出発した。

写真:阪神・淡路大震災での被害状況

写真:阪神・淡路大震災での被害状況

写真:昨年3月に行われたBCP訓練での被災状況報告訓練

阪神・淡路大震災での被害状況(左・中央)と昨年3月に行われたBCP訓練での被災状況報告訓練(右)

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現場の被災調査

道路は,多くの場所で,亀裂や沈下が起き,老朽化した木造住宅やビルが倒壊していた。まさに21年前,テレビで見た阪神・淡路大震災直後の光景が目の前にあった。赤坂は,自分が二次災害に遭わないよう安全を第一に考え,通行可能な道路を選びながら現場へとペダルを漕ぐ。途中,地図を見ながら当社が施工した物件を中心に,沿道の被災状況を確認していった。主要な幹線道路や環状7号線内側で,交通規制がされたようだ。建物や電柱の倒壊もあり,実際に車が走れる道路は少ないと感じた。スマートフォンで「社員向け震災対策情報(BCMプラットフォーム)」をチェックすると,関東支店(さいたま市大宮区)に本社を代替する震災対策本部が設置されていた。本社ビル(東京都港区)は建物自体の損傷はなかったが,近くで発生している火災の影響を考慮し,横浜支店の磯子寮(横浜市磯子区)に入った押味社長が代替本部を指示したのだ。参集社員による震災時の拠点の立ち上げも始まっていた。ほかにも掲示板を見ると,稼働中現場や過去施工物件について,被災状況の確認が行われている。うちの現場の状況は? メールが遅延しているのか。部下からは未だ返事がない。「オンラインハザードマップシステム」での予測によれば,大きな被害にはならないはずだが,自分の目で確かめなければ安心はできない。

現場に到着したのは9時過ぎ。10km弱の道のりだったが1時間以上かかってしまった。現場は24時間体制で稼働していたが社員,協力会社社員とも避難し,全員無事だった。何人かの社員が既に現場の安全を確認し,余震に備え二次災害を防止するための対策を行っていた。会社への報告は,「災害時現場速報システム」で,現場の状況を携帯電話から写真付きで登録した。

写真:昨年10月に行われたBCP訓練の様子。震災対策本部

写真:関東支店に設置された本社代替震災対策本部

昨年10月に行われたBCP訓練の様子。震災対策本部(左),関東支店に設置された本社代替震災対策本部(右)

道路啓開の開始

10時,東京土木支店から赤坂の携帯へメール連絡が入る。国道246号の一部区間のがれきを撤去し啓開にあたってもらいたいとの依頼である。一般国道などを緊急輸送に使えるようにするための道路啓開は,災害時に建設業が国から求められる大きな役割である。災害協定に基づき,国土交通省から日本建設業連合会を通して,当社の震災対策本部へ依頼があったのだ。赤坂は,重機の手配を行い,配下の社員,協力会社各社を率いて現地へ向かうが,道路は通行不能箇所や渋滞,火災などがあり,迂回を余儀なくされた。到着したのは夕方だった。現地近くの現場事務所を,拠点として使うことになり,事務やIT系の社員が中心となって連絡調整に必要なMCA無線,パソコン,モバイルルーターなどの整備のほか,食料を用意しておいてくれた。この拠点で啓開作業の計画を練り,24時間体制で作業にあたることにした。翌日の午後には,何とか走行車線を確保できた。

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しかし,木造住宅密集市街地などでは大規模な延焼火災が発生し,建物被害に巻き込まれた要救助者が数多くいる地区では,啓開作業が遅れているようだ。道路のほか,首都圏の新幹線・JR在来線,私鉄・地下鉄が全線で不通となり,郊外の自宅で被災した従業員は都心へ向かえない。このことは従業員徒歩参集予測で事前にわかっていたため,都内の社員寮からも応援社員を供給する体制はできていたが,それでも人員不足は否めない。「他の現場を手伝いに行こう」と,皆から声が上がるが,長丁場となる復旧作業,まずは社員や協力会社に十分な休息をとらせるため,本部,支店と相談して交代体制を計画した。その後,指示された他の啓開作業現場に合流,引き続き復旧作業を続けた。震災から48時間,緊急輸送道路が概ね啓開された。

写真:阪神・淡路大震災での災害復旧工事の状況

阪神・淡路大震災での災害復旧工事の状況

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大震災から3日目

大震災から3日を迎えた。主要な幹線道路や環状7号線内側の交通規制は継続されているが,緊急作業や緊急物資運搬の車両は徐々に増加。高速道路は緊急交通路としてのみ使われている。当社の震災時の物流拠点の一つである技術研究所西調布実験場(東京都調布市)では,震災直後から,工事に使う資機材や仮設トイレ,食料,燃料などの支援物資が全国の支店から集まり,都内各所の復旧現場へ供給し続けてきた。緊急輸送道路の啓開に伴い,その量も急速に増えるようになった。道路,橋,鉄道などのインフラ施設のほか,庁舎や病院,オフィスビル,工場などの当社施工建物の被災度判定も本格化する。

赤坂は,ようやく自宅に戻った。2万人以上が犠牲になった大震災であり,妻と娘も不安のなかで72時間を過ごしていた。報道によると,建物の倒壊や火災,転倒した家具による犠牲者が多いという。また,自宅が倒壊しなくても,食料や物資の不足,断水の継続により,避難所の避難者数が日々増えていると伝えている。耐震性の高いマンション,家具の転倒防止対策が家族を守ってくれ,そして十分な備蓄により,何とか避難所に行かなくても生活ができた。特に携帯トイレ,趣味で使っていたアウトドア用のランタンや炭,ソーラー充電器,貯めていた風呂の水が役立った。

赤坂にとって,これほどの緊急対応は初めての経験だった。そんな中で,迅速な判断と行動ができたのは,あらゆる災害をイメージし,その時どのように行動し,何をしなければならないのか,何を備えなければならないのかを日頃から考えていたからだと振り返る。そして,テレビが伝える上空からの映像を見て,首都東京の復旧・復興活動は,まだスタート地点にも立っていないと感じた。これからが本番,厳しい道のりが待っている。

※この仮想社員の行動モデルケースは,「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」(中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ)を参考に作成した

写真:東日本大震災の直後は東北支店へ本社や支店からの緊急支援物資を搬入した

写真:昨年10月のBCP訓練では物流拠点の一つである技術研究所西調布実験場(東京都調布市)で緊急支援物資の調達訓練が行われた

写真:東日本大震災時の当社の緊急支援物資運搬トラック

東日本大震災の直後は東北支店へ本社や支店からの緊急支援物資を搬入した(左)。昨年10月のBCP訓練では物流拠点の一つである技術研究所西調布実験場(東京都調布市)で緊急支援物資の調達訓練が行われた(中央)。東日本大震災時の当社の緊急支援物資運搬トラック(右)

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非常時の備蓄品

食料,飲料水,受水用ポリ容器,簡易ガスコンロと燃料,固形燃料,懐中電灯,乾電池,ローソクなど

※食料,飲料水は,3日分用意しておく(できれば1週間分が望ましい)

防災用品

消火器,バケツ,風呂水の汲置き,スコップ,バール,のこぎり,ジャッキ,防水シートなど

写真:非常時の備蓄品,防災用品,非常持出品,地図

非常持出品

食料,飲料水,携帯用充電器,懐中電灯,携帯ラジオ,乾電池,マッチ・ライター,救急医薬品,常用薬,診察券,お薬手帳(処方薬のメモ),ティッシュペーパー,生理用品,衣類,タオル,防寒具,雨具,缶切り,メガネ・コンタクト,小銭(電話用10円硬貨),手帳,筆記具など

地図

自宅最寄りの連絡拠点への経路,トイレの位置,避難場所,当社施工物件などの位置を記入した周辺地図を用意しておく

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社員向け震災対策情報(BCMプラットフォーム)

震災に関する統合情報基盤で,インターネットが使用可能であれば,当社ホームページからアクセスできる。震災対策本部からの指示事項に加え,拠点の立ち上げ状況,従業員安否と稼働中現場の安全確認,得意先及び施工物件の対応,緊急支援物資の搬出入など様々な情報が集積される。会社からの指示などの情報を得るだけでなく,自ら情報発信することができる。「鹿島従業員安否システム」,「災害時現場速報システム」などの各システムへアクセスするプラットフォームでもある。

※BCM:事業継続マネジメント

図版:社員向け震災対策情報(BCMプラットフォーム)

震災時の拠点

首都直下地震が発生した際,災害時の復旧作業を支える当社の拠点は,20ヵ所ある(「首都直下地震に備える」参照)。震災対策本部や復旧活動を支える本支店や営業所が10ヵ所,復旧活動に従事する社員の生活拠点となる寮・社宅が4ヵ所,支援物資を集積する物流拠点が6ヵ所となっている。

拠点毎に予め参集要員が決められており,震度6弱以上の災害時には,拠点立ち上げ後,自社の被害状況や役員・従業員とその家族の安否確認,業界団体,国,都県,市区町村,顧客,協力会社との連絡調整,支援物資や応援社員の手配などが行われる。

拠点の配置――分散して備える

国は,マグニチュード7クラスにおいて,19の地震を想定している(「首都直下地震を知る」参照)。当然,震度分布,被災パターンも異なる。そのため,当社では各拠点の配置を分散,様々な被災パターンに対応できるようにしている。関東地方の南西部が被災した場合には,北東部の拠点から支援できる体制だ。

首都直下地震に備える」の震度分布となる都心南部直下地震であれば,比較的揺れが少ない関東支店(さいたま市大宮区)を直後の代替的な震災対策本部とし,技術研究所西調布実験場(東京都調布市),カジマメカトロエンジニアリングの川越事業所(埼玉県川越市)を物流拠点とし,関東北部からの支援体制を構築できる。

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オンラインハザードマップシステム

東日本大震災以降,国や自治体はハザードマップの公開を積極的に行い,インターネット上で,いつでも閲覧可能な環境が整っている。当社では,公開されているハザードマップを整理し,全国の拠点と重ねて表示できる「オンラインハザードマップシステム」を構築した。各施設の周辺地域における震度,液状化,津波による被害の可能性などを事前に確認することができる。当社の拠点だけでなく,施工済みの建物と重ねて表示することも可能で,顧客の復旧活動支援にも活用している。

図版:オンラインハザードマップシステム

図版:オンラインハザードマップシステム

災害協定

国土交通省関東地方整備局(関東地整)と日本建設業連合会(日建連)関東支部は,「災害時における関東地方整備局管内の災害応急対策業務及び建設資材調達に関する協定」を締結している。災害発生時,関東地整は日建連に対し原則として災害協定に基づく協力要請を行い,日建連会員会社は,日建連を通じて要請のあった役務や資材等の提供を行い協力することになっている。

最近では鬼怒川堤防が豪雨で決壊した際に要請があり,直ちに応急復旧工事を行っている。

従業員徒歩参集予測

想定した地震に対して道路の被害予測などを行い,それに基づき一定時間内に各拠点に徒歩参集できる従業員数を算出するシステムである。地震動評価や地盤,構造物,建物,人などの被害評価,ネットワーク解析などの様々な高度な技術を組み合わせている。震災時には,早期に震災対策本部を立ち上げ,情報収集・対応検討などを実施する必要があることから,このシステムを用いて震災時の活動体制を構築している。

図版:従業員徒歩参集予測

その他,当社では震災対策技術として,液状化の予測,構造部材・非構造部材の被害予測,建築設備の停止期間予測,ライフラインの機能停止期間予測,保有施設全体・サプライチェーンのリスク評価などのシステムを保有している。

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