避難指示区域のうち,田村市・楢葉町の全域及び川内村の一部は,昨年までに避難指示が解除され住民の帰還が可能となった。残りの市町村については,帰還困難区域を除き,来年3月末までを避難指示解除の目標とし,準備が整ったところから,順次解除していく見込みとなっている。「来年3月末は,大きな節目となります。帰還困難区域以外での除染が完了し,避難指示が解除され,避難されている方々がご自宅に戻ることが可能となる見込みです。鹿島さんをはじめ民間の皆様方には,福島の除染・廃棄物処理において活躍をいただいています」。環境省・福島環境再生事務所の馬場康弘調整官は,事務所開設直後の2012年8月の着任以来,除染,家屋解体,仮設焼却施設の建設その他廃棄物処理に関わる業務を担当されている。
「福島の復興では,除染土壌,廃棄物の早期搬出が大きな鍵です。中間貯蔵施設の整備が急がれます」。除染で回収した土壌,焼却施設から出る焼却灰のうち高濃度のものについては,大熊町と双葉町に中間貯蔵施設を建設し,県外最終処分までの間(30年),貯蔵する計画となっている。「環境省では,現在,予定地の地権者の方々に対し補償内容のご説明を行っています。昨年11月,丸川珠代環境大臣より用地交渉を加速化させる方針が打ち出されました。環境省一丸となり,早期の施設整備に向けた取組みを進めております」。
福島県内全域はもとより,避難指示区域でも復興に向けた動きが始まりつつある。いま,各自治体で魅力あるまちの再生に向けて,様々なアクションプランが検討されている。「鹿島さんをはじめ民間の皆様方にも知恵と技術を発揮いただくこととなるでしょう。避難指示解除が環境省の業務達成とは思っていません。福島の人たちが帰還されて笑顔が戻る日まで,国は福島の復興に対して責任をもって取り組んでいきます」。
当社JVは,福島の災害廃棄物処理に関わる新たなプロジェクトに参画した。中間貯蔵施設の建設を控え,建設予定地とされる大熊町の計画地内に試験的に土壌保管場を整備し,福島県内に一時保管されている除染土壌をパイロット輸送する業務だ。この「大熊町中間貯蔵保管場設置(その2)JV工事」の所長を務めるのは,「田村市除染等工事」を担当した本田豊所長。「富岡町本格除染(その1)JV工事」の岡史浩次長も副所長を兼任する。約2年半ぶりのコンビ復活である。本田所長は,田村市での除染の現場業務時に定年を迎えたが再雇用され,東北各地の現場で精力的に仕事をしてきた。昨年9月まで,宮城県内の土木工事を担当し,その後,福島入りした。
本田所長は福島着任の挨拶に,田村市都路(みやこじ)地区にあるペンション「ファームハウス都路」のオーナー・呑田(のみた)理美子さんを訪ねた。田村市は,2014年4月に避難指示が解除されている。ここは,当社が担当した除染エリアであり,本田所長をはじめJV社員が一時宿泊していた場所だった。
呑田さんは約20年前,都路の自然と人に魅せられて都会からこの地に移り住んだ。ホテル業を仕事としてきた経験から,築100年超の古民家を移築してペンションを始めた。震災の時は,3月14日に自衛隊に避難を要請され,三春町の友人宅に身を寄せた。その後は田村市の船引(ふねひき)に家を借りて仮住まいの生活を暫く送った。「除染作業の挨拶にみえた本田所長から社員の宿泊先が不足していると聞いて,除染関係者のみの宿泊を条件に2013年1月から特例で営業再開できたのです」(呑田さん)。
「寝食も忘れて働いた大変な業務でした。それだけに,田村市の避難指示解除のニュースは嬉しかった。一方で,帰還した住民は3割程度と聞いて複雑な思いがあります」。福島市渡利地区に家がある本田所長は,自身も被災者のひとりだ。「人にはそれぞれ事情がある。これからどう生きていくかは個人の問題。だけど,戻りたい人がいる限り,まちを住める状態に戻すのは大切な仕事。綺麗に除染してもらって,どうもありがとう」。呑田さんの言葉が,本田所長の心に染みた。