JR常磐線富岡駅前周辺は,津波による甚大な被害を受けた。現在,駅東側に位置する海岸沿いの津波被災地(仏浜・毛萱(けがや)地区)には,廃棄物処理施設が建つ。約8万2,000m2の敷地に破砕選別施設,焼却施設,選別物保管施設,灰保管施設が配置され,約30万5,000tと推定される富岡町内の廃棄物(津波がれき・家屋解体廃棄物・片付けごみ・除染廃棄物等)を破砕選別・焼却処理する。仮設の焼却炉は1日あたり500tの処理能力を有し,避難指示区域内で最大規模となっている。
「富岡町廃棄物処理業務」を指揮する射場(いば)学所長は,阪神・淡路大震災の際,鉄道・高速道路の復旧工事に従事した。その経験が買われ,震災直後に関西支店から応援に駆け付け,被災地をまわり,復興の大きな足かせとなっていた津波で発生したがれき処理の検討を行った。その後,宮城県内最大規模となった「災害廃棄物処理業務(石巻ブロック)」の現場に2年半従事し,無事業務を完了させた。富岡町には,石巻ブロックで力を合わせて取り組んだ社員,協力会社のメンバーを多数率いて乗り込んだ。「ここで廃棄物を選別しリサイクル処理や焼却処理することで,廃棄物の体積を1/10以下に減容化できます」。
2014年6月,処理施設の建設に着手。約10ヵ月という短工期で施設を完成させ,昨年4月から稼働している。「MHIEC(三菱重工環境・化学エンジニアリング)・鹿島・MHI(三菱重工)共同企業体」が行うこのプロジェクトは,乙型JVと呼ばれる分担施工方式が採られている。当社は,焼却設備を除く各施設の設計・施工,廃棄物処理業務の運営管理,廃棄物処理完了後に施設全体の解体撤去を行う。石巻ブロックとの違いは,放射能汚染された廃棄物を処理する点だ。地域の人々,作業員にとって安心・安全な処理が何より必要となる。「MHIECさんは焼却施設の設計・施工・運営を,MHIさんには放射線管理・モニタリングを担当いただき,各企業が得意とする技術力を発揮します。当社は,石巻ブロックで蓄積した廃棄物の破砕選別のノウハウを活かした処理に加え,ゼネコンが得意とするマネジメント力を発揮し,プロジェクト全体を取りまとめ,コーディネートしていくのが仕事。建設業で培ってきた知恵が役立つなら本望です。処理開始当初からトラブルなく高い選別精度を確保し,無災害で作業は順調に進んでいます」。
テントで覆われた破砕選別施設のなかでは,廃棄物を搬入するダンプトラック,廃棄物を振り分ける重機の運転,フレコンバッグを破砕する機械等の管理や手選別作業を,防護服に身を包んだ作業員が行っている。廃棄物には放射性物質が含まれているため,作業員は内部被ばくを防止する対策として,防護服や防塵マスクを着用している。外部被ばくに対しては,各自に個人線量計を携帯させ,日々の被ばく線量を計測,管理している。また,作業場から退出する際は,汚染を外へ持ち出さないよう,体の表面と持出し物の汚染検査を行うなど,管理を徹底している。射場所長は,厳しい環境下で働く社員・作業員に対し慰労の気持ちを忘れない。協力会社は地元企業を積極的に採用し,ソフトボールやバーベキュー大会などのイベントを通し,社員と作業員間のコミュニケーションを深めている。昨年末の忘年会では,地元の協力会社「倉伸」の職長・猪狩考平さんが所属する「小浜風童太鼓(こばまふうどうたいこ)」のメンバーを招き,和太鼓の演奏を披露してもらった。迫力ある太鼓の響きに,工事関係者は復興への想いをひとつにした。
「鹿島さんに富岡の文化を知ってもらえたなら嬉しい」と話す「小浜風童太鼓」代表の榎内(えのきうち)正和さん。小浜地区の盆踊り太鼓を継承したいと,子どもたちに太鼓を教えたのが始まりだった。成長した子どもたちは,約10年前に「小浜風童太鼓」を結成し,町内・県内を中心に演奏活動を行ってきた。しかし,震災で13台の太鼓すべてが津波に流された。メンバーも散り散りに県内各所に避難していった。「震災の翌年,息子がもう一度太鼓を叩きたいと言い出しまして,活動を再開させたのです」。
富岡町民が避難生活を送るいわき市の泉玉露仮設住宅の自治会から榎内さんに,1月11日のもちつき大会での演奏依頼が入った。当日は,多くの町民が集まり,ふるさとの太鼓の音色に聴き入った。「会場に集まった多くの町民の方から,温かい拍手をいただきました。故郷への想いが復興の原動力なのです」。
富岡町対策地域内廃棄物処理業務
- 場所:
- 福島県双葉郡富岡町
- 発注者:
- 環境省
- 受注者:
- MHIEC・鹿島・MHI共同企業体
- 業務:
- MHIEC;焼却設備の設計・施工・施設運営
鹿島;各施設及び破砕選別設備の設計・施工,
破砕選別施設・保管施設・運搬等の運営,施設全体の解体
MHI;放射線管理,放射能モニタリング - 工期:
- 2014年3月~2018年3月