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新木造技術

新しい建築空間創造への可能性を探る

鹿島は、1990年代より木造技術の向上に力を注ぎ、数々の物件を手がけてきました。

当時は、外国産材の輸入促進・国内需要拡大・地域振興などの社会情勢に加え、集成材による大断面加工・製造技術の進歩、耐久性・耐火性能の向上などにより木造建築が再認識され、関係各省庁や民間を含めたプロジェクトや研究会が設けられたことと基準法が改正されたことで、コンクリート、鉄に継ぐ第三の構造部材として注目され、現在の需要拡大につながりました。

この社会的な流れに中で、鹿島社内にプロジェクトチームが編成され、“従来の木質系建築の既成概念にとらわれることなく、魅力ある木質空間を創造するために必要な技術を検討し、新しい建築空間の創造への可能性を探る”をテーマに開発が進められました。

これまでに鹿島が手掛けたドームを主とする木造大空間建築とその技術の変遷を紹介します。

鹿島の木造ドーム年表

図:鹿島の木造ドーム年表 長野市オリンピック記念アリーナ(Mウェーブ) 信州博覧会グローバルドーム(やまびこドーム) 出雲ドーム 鹿島建設技術研究所・振動台実験棟 東京キリスト教学園・礼拝堂 瀬戸大橋博覧会・四国イベントプラザ(空海ドーム) 横浜博覧会・横浜館

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瀬戸大橋博覧会・四国イベントプラザ(空海ドーム)

四国イベントプラザは、舞台の背景に海と瀬戸大橋が最もよく見える場所に建設され、博覧会の会期中はメイン会場となり、終了後も各種文化活動の場(空海ドーム)として使われている。

ドームは、ギリシャのコロシアムのように中央舞台が半円型に取り囲み、舞台の背景に瀬戸大橋を取り込んでおり、舞台から客席側を木のドームで覆って橋の「剛」に木の持つ「柔」を対比させた設計になっている。

白い膜材と木材の茶色がよくマッチし柔らかな光に包まれた空間を演出している。 このドームは中心に向かって半球を1/3程度削りとった形状をしている。屋根フレームは直材の集成材からなり、その端部をお互いに接合金物で緊結して三角形を組みながら球形状に作られている。

初めての木造ドーム建設であり、建方後の精度を確保できるかが肝心、木特有の接合金物のガタ付、めり込み量を考慮した解析を行い、変形量を建方に反映することで、ジャッキダウン後の精度は予測値以内に収めることができた。

設計:
木島安史、SD設計室
構造設計:
木村俊彦
竣工:
1988年1月

写真:外観

外観

写真:客席からの内観

客席からの内観

横浜博覧会・横浜館

横浜博覧会のホスト館である横浜市のパビリオン「横浜館」は、当時としては直径60m、高さ15mの国内最大級の木造ドームとして建設された。

このドームは、米国のウエスタン・ウッドストラクチャー社より技術導入されたもので、三角形を組み合わせたバラックスドーム工法であり、構造用大断面集成材及び金物の大部分は米国より輸入された。

この工法の特徴は、構成する全ての集成材部材が同一の曲率を持ち、全て球芯に向かってレイアウトされて球面状ドームを構成している。

ドームは6つのセグメントより成り、各セグメントの主フレーム(構造用大断面集成材)は六角形をした連結用ハブ金物よりトラス状に接合されている。連結ハブ金物は集成材フレームに掛かる力を全体に伝えると共にドーム全体のバランスを保ち、地震や強風時などの外力に十分耐えられるように構造設計が行われている。

バラックスドーム工法の建方は、ドームの基本となるA字型のトラス部材を地組し、下層より一段ずつ螺旋を描くように上層に組上げて行く工法であり、内部足場、支持部材などの簡素化ができる合理的なシステムである。

設計:
大高正人
構造設計:
青木繁
竣工:
1988年12月

写真:外観

外観

写真:バラックスドーム建方

バラックスドーム建方

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東京キリスト教学園・礼拝堂

礼拝堂は、400人収容の音楽ホールとしても使用されている。半径約11mのベイマツ集成材よりなるドーム屋根をふたつ接合した屋根で、エントランスホールの小ドームと共に、外部仕上げの大部分を天然スレート葺きの黒い建物となっている。

内部はアーチに切り取られた開口部から均質な光に満たされており、軸組の壁面、ベンチ等、木を主材料としている。

ドームは構造用大断面集成材と構造用合板を組み合わせたシェル構造といえる。

小規模ではあるが、複雑な木造ドームに挑戦した事例である。

設計:
磯崎新
構造設計:
川口衛
竣工:
1989年5月

写真:外観

外観

写真:教会内部見上げ

教会内部見上げ

鹿島建設技術研究所・振動台実験棟

世界にも誇れる大型振動台の実験棟である。コンクリートの壁に囲まれた無窓空間を明るい実験場にするため屋根が木造のトップライトになっている。

実験場は、一辺が21mの正方形平面で高さ12.7mの大空間、屋根は、大断面集成材のアーチに膜を張った8角形のドーム屋根。アーチ材は、対角に4台のアーチ材を井桁状に配置、卍型に組み合わせることで、対称性を持たせた合理的なドーム構造になっている。また、膜材は、アーチ状の鋼管梁で中央部を面外に押し上げ、膜に張力を導入、緩み、ばたつきを防止している。

大規模なドームではないが、設計施工による木造+膜構造の屋根としては、初めての経験であった。

設計:
鹿島
竣工:
1990年3月

写真:外観

外観

写真:実験場トップライト内観

実験場トップライト内観

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出雲ドーム

出雲ドームは、出雲市の市政50周年の記念事業として建設された。コンセプトは古代最大の木造建築・出雲大社を有する出雲市に、日本の伝統文化である木造建築をいかに現在の大空間構造として蘇えらせるかということであった。その解答のヒントが木製の骨に和紙を貼った「蛇の目傘」であった。構造上の最大の特徴は、木とテフロン膜にスチールを組み合わせたハイブリット構造(張弦梁)である。ドーム内に入ると、スチール部材はあたかも蛇の目傘の骨をかがる細い糸のようで、目立つことなく、ハイブリッド膜ドームとして世界最大の規模を誇っている。

構造システムは、36本のアーチ材を放射状に大断面構造用集成材(ベイマツ)を用いている。膜をケーブルで押えることでV字型の膜形状となり、横つなぎ材の無い放射状に集成材が圧縮力を負担している。一方、束材を介してドームの内側に配置されたリングケーブルやダイアゴナルロッドは、引張材としてアーチの座屈と変形を内側から抑える。新しいハイブリット構造システムの立体張弦アーチ構造となっている。

集成材は直部材で数量約3000本(約2000m3)、米国から直接輸入され、現場に加工場が作られ約10万箇所の穴あけ加工が行われた。施工には木材の軽さを最大限に利用した世界でも類を見ないスケールのプッシュアップ工法を採用している。これはドームの屋根全体を地上の低い位置に、あたかもドームを押し広げたように組立てた後、ドーム全体を一気に所定の高さまでジャッキで押し上げ建方を行う工法である。

設計:
鹿島、斎藤公男
竣工:
1992年3月

写真:外観

外観

写真:放射状アーチの内観

放射状アーチの内観

写真:リフトアップ施工

リフトアップ施工

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信州博覧会グローバルドーム(やまびこドーム)

信州博覧会のメイン会場で終了後は、多目的スポーツ施設として利用されている。

このドームは、信州産カラマツ材による初の100m級ドームである。外観はアルプスの山並みを背景に松本平の景観と調和を図りつつ、折板状の大屋根をコンクリートの二重列柱の上に浮かせたものである。内部は、カラマツ材による湾曲アーチに、直部材小梁を杉綾状に組み上げ、その梁間にスギの間伐材を垂木として全面に配し、トップライトからの光でそのパターンを美しく浮かび上がらせている。

建方は、ドーム中央に作られた仮設構台の上に鋼製型枠を組上げコンクリートを打設し中央圧縮リングを構築、同時に下部構造も構築する。続いて山形に地組された下部のアーチユニットを方杖材で支持しながら建て、中間部のアーチユニットを建て込み上部の中央リングと接続している。

建方中は、架構の均衡を保つため円を3等分し、対面する各ユニットがそれぞれバランスするように順次建方を行っている。建方完了後は、中央リングを支持するジャッキをダウンすることで、初めてドームとしての力学系が成りたち完成する。

構造上の特徴である野路板パネルシステムは、屋根下地材と構造材を兼用するもので、新しい発想に基づいて開発されたものである。

メインアーチと杉綾状の小梁の間に、細かく並べられたスギの間伐材に構造用合板を釘打ちすることにより、屋根面剛性が高めと同時に折版構造のドームを構成している。

設計:
鹿島、斉藤木材工業
竣工:
1993年6月

写真:外観

外観

写真:スギ綾状天井のドーム内部

スギ綾状天井のドーム内部

写真:下部アーチユニット建方

下部アーチユニット建方

写真:建方中のドーム外観

建方中のドーム外観

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長野市オリンピック記念アリーナ(エムウェーブ)

分節した木造吊り屋根が連続してワンウェイに懸架した集成材小梁がそのまま天井を形成するという、従来のドームにはない建築空間を作り出し、長手方向へのリニアな空間伸縮可変システムを組み入れた施設である。

オリンピック時には400mスピードスケートリンクとして使用され、終了後の利用時において対面する直線状固定スタンドとしてアメリカンフットボールなどの大型スポーツや大規模イベントに対応させ、一方、前後進する一対の円弧状可動スタンドにアリーナを小さく囲む「可動壁」の役割をもたせ、バレーボールなど小型スポーツやコンサートなど小規模イベントにも対応させている。

内部空間には日本人の感性に語りかける香り・優しさ・温もりを持たせ、また長野市のシンボル的な建物にふさわしい素材として、信州カラマツの構造用大断面集成材を大胆かつふんだんに使用している。これは細かく並べることによって、スピード感を与えるダイナミックな吊り天井の連なりとなり、連子格子を思わせる内壁面により構成された内部空間を創出している。

スパン80mの吊り屋根を構成する部材は、300×125㎜の構造用大断面集成材で厚さ12㎜の鉄板を挟み込んだ複合材となっている。集成材の上面に構造用合板を釘で固定することで、屋根下地となり水平剛性を確保している。小梁の間には、結露防止と吸音のための厚さ50㎜のグラスウールボードが組み込まれ、構造・環境要素を取り込んだ極めて合理的なシステムとなっている。

一般的に吊屋根は自重が軽く、柔らかいので、外力が掛かると剛性や固有振動数が変化するという複雑な特徴を持っている。そのため、風荷重などの動的な外力に対しては、三次元の応答解析を行い風荷重による挙動を制御するために吊屋根の重なり部分と妻側にオイルダンパーを設置することで安全性を高めている。

設計:
久米・鹿島・奥村・日産・飯島・高木
設計共同企業体
竣工:
1996年11月

写真:外観

外観

写真:吊屋根のダイナミックな内部空間

吊屋根のダイナミックな内部空間

写真:スケートリンク時内観

スケートリンク時内観

写真:吊屋根の重なり内観

吊屋根の重なり内観

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