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Site 3: 除染・中間貯蔵業務

除染の技術確立とノウハウを重ねる

福島県では東京電力福島第一原子力発電所事故で放出された放射性物質により汚染が生じ,
多くの住民が避難を強いられた。国は人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに
低減することを喫緊の課題として,2011年8月「放射性物質汚染対処特措法」を公布。
対応への取組み方針を示すとともに,除染特別地域においては国が直接放射性物質による
汚染を取り除くための除染事業を行うこととした。

除染事業への対応

当社は国が行う除染事業を視野に,除染の効果を高めるための対策や作業・運搬の合理化,汚染廃棄物の貯蔵などに関する技術開発を進めた。2011年11月,日本原子力研究開発機構による日本初の「除染モデル実証事業」にJVで参画。表土剥ぎ・高圧洗浄・舗装切削・排水処理などの除染作業を試験的に行い,安全で効果的な除染方法の検証を行った。環境省発注の「富岡町拠点施設緊急除染工事」では,本格除染を視野に公的施設の先行除染に取り組むなどノウハウを重ねていった。

その後,当社は除染モデル実証事業に引き続いて,環境省発注の「田村市除染等工事」「富岡町除染等/被災建物等解体撤去等工事」を担当し,除染業務を行った。そして今,そのノウハウは大熊町での除染・被災建物等解体に活きている。

これらの工事で標準化した作業方法をもとに新たな合理化技術を開発しながら,安全性と効率性の高い施工管理体制を構築,運用している。

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中間貯蔵施設事業への対応

福島県内の「除染特別地域※1」と「汚染状況重点調査地域※2」から発生する除染廃棄物は,焼却処理などでの減量化などを行う一方,除去土壌(除染により発生した土壌)はフレコンバッグに封入された状態で各自治体の仮置き場に保管されたままとなり,対応が急がれた。

国は除去土壌等を最終処分するまでの一定期間,安全かつ集中的に管理・保管する中間貯蔵施設を整備することとし,県および自治体との調整の結果,大熊町・双葉町の民有地・公有地を合わせた約1,600haを施設用地として,2016年度から環境省による中間貯蔵施設事業が本格化した。工事は全8工区に分けられ,当社JVは「平成29年度中間貯蔵(大熊1工区)土壌貯蔵施設等工事」を受注し,今も作業が続けられている。

※1 除染特別地域:国が除染の計画を策定し除染事業を進める地域(11市町村)。基本的には,事故後1年間の積算線量が20mSvを超えるおそれがあるとされた「計画的避難区域」と,東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内の「警戒区域」を指す

※2 汚染状況重点調査地域:市町村が中心となって除染を行う地域(41市町村)。年間の追加被ばく線量が年間1mSv(1時間あたり0.23μSvに相当)の地域を含む市町村
(参考:環境省HP「除染情報サイト」)

図版:除染特別地域(2017年9月30日時点)

除染特別地域(2017年9月30日時点)

図版:田村市での除染作業

田村市での除染作業

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平成24年度田村市除染等工事

田村市は都路地区の一部が福島第一原子力発電所から半径20km圏内の避難指示区域に指定されていたことから,国直轄による初めての本格除染が行われた。その規模は宅地(学校,公園,墓地,大型施設を含む)約150件,農地約140ha,森林約280ha,道路約29haに及んだ。除染作業は1日あたり最大1,300人,延べ12万人の作業員を動員した。除染が完了した田村市は2014年4月,避難指示が最初に解除となり,現在多くの住民が帰還している。
[工期:2012年7月~2013年6月]

図版:森林での堆積物の除去

森林での堆積物の除去

富岡町除染等/
被災建物等解体撤去等工事

富岡町は約1万6,000人の町民が避難する事態となった。放射線量は区域によって異なるため早期復旧が可能な区域から段階的に除染作業を行った。
「平成25年度富岡町除染等工事(その1)」では,約3,000haの除染で,1日の最大作業員数約2,200人を擁し行った。「平成29年度富岡町除染等工事(夜の森地区他)」ではJR夜ノ森駅周辺約50haの除染作業を行うなど多くの除染作業を担った。「富岡町被災建物等解体撤去等工事」では,町全域における半壊以上の住宅など,建物の解体・撤去が行われた。ピーク時は解体チーム約170班を編成,解体対象建物は計2,909件を数えた。
[2013年8月~2020年12月に複数の工事を担当]

図版:宅地庭の表土削り取り

宅地庭の表土削り取り

図版:舗装面洗浄(夜の森地区)

舗装面洗浄(夜の森地区)

図版:高圧除染車による道路除染作業

高圧除染車による道路除染作業

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平成29年度中間貯蔵(大熊1工区)
土壌貯蔵施設等工事

2017年5月から中間貯蔵施設を構成する受入・分別施設や土壌貯蔵施設などの設計・施工を進め2018年7月に供用開始,除去土壌等の輸送,受入・分別処理施設等の運営,処理土壌の貯蔵にかかわる業務を担っている。除去土壌等の輸送は,安全で確実な積荷,輸送方法やルートを検証するための「パイロット輸送工事」を実施した後,輸送対象物量約1,400万m3のうち,福島県全域から約100万m3の輸送を行った。除染土壌等の輸送や施設運営の業務は現在も続けられている。 [工期:2017年5月~施工中]

図版:受入・分別施設内で処理土壌をベルトコンベアホッパーに投入

受入・分別施設内で処理土壌を
ベルトコンベアホッパーに投入

図版:土壌貯蔵施設

土壌貯蔵施設

あのときを振り返って

作業は正しい知識と認識が必要

図版:岡 史浩 副所長

女川原子力発電所安全対策工事事務所
岡 史浩 副所長
(当時・田村市除染等工事 副所長,富岡町除染等工事 次長,
中間貯蔵に係る大熊町土壌等保管場設置等工事 副所長)

除染作業にあたっては正しい知識と作業影響についての認識を持つことが重要です。10年たった今でも除染特別地域では帰還困難区域が設定されているという厳しい現実がありますが,田村市の除染を担当した地域は現在帰還率が80%を超えており,携わった者としてとても嬉しく思います。「放射線量を下げるだけが除染ではない,住民の不安を取り除くことが大切」という当時の本田豊所長の言葉が今でも思い出されます。現在,原子力発電所の安全対策工事に携わっていますが,所定の品質を確保した構造物を納めることで安全に少しでも寄与できるよう努力していきたいと思っています。

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Column

30年から40年を要する
福島第一原子力発電所の
廃炉への取組み

震度6強の強い揺れと大津波により,福島第一原子力発電所は原子炉冷却用全電源を喪失。原子炉を冷却することができず炉心損傷が始まり,これに伴い発生した水素ガスは原子炉建屋内に充満,次々と爆発を起こし,放射性物質が広範囲に飛散した。

福島第一原子力発電所では今も多くの関係者によって懸命の作業が続けられている。当社も発災直後の応急対応,作業環境の整備,汚染水対策,廃炉に向けた使用済燃料プールからの燃料取り出しのための工事などに総力をあげて対応。高線量下での作業となるため,社員・作業員の線量管理や健康診断有効期限管理などを一元的に行う「放射線管理システム」を開発するなど,一人ひとりの安全管理に努めた。また,無人化施工技術の開発・適用も進められた。

廃炉に向けては30年から40年を要する。事故直後は敷地全体のエリアで防護服と全面マスクの着用が必要だったが,2018年5月までに構内全域の96%のエリアで一般作業服での作業が可能になるなど,着実に前進している。当社はこれからもその歩みを進めるための協力を続けていく。

図版:3号機の使用済燃料プールからの燃料取り出しに向け,ドーム型の燃料取り出し用カバーを設置した

3号機の使用済燃料プールからの燃料取り出しに向け,ドーム型の燃料取り出し用カバーを設置した

図版:1~4号機を取り囲むように全長1,500mの凍土壁を構築し,建屋内への地下水の流入を抑制

1~4号機を取り囲むように全長1,500mの凍土壁を構築し,
建屋内への地下水の流入を抑制

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