1年以上にわたり世界中で猛威を振るう,新型コロナウイルス感染症COVID-19。
その対策に名乗り出たのは,わが国が誇るスーパーコンピュータ「富岳」だ。
昨年,当社は「富岳」を活用した新型コロナウイルス対策プロジェクトに参画,その研究の一翼を担っている。
本プロジェクトの成り立ちから現在までの動向を特集し,当社の感染対策メニューを紹介する。
室内環境シミュレーション技術
の提供
昨年4月,新型コロナウイルスの感染拡大を受け,理化学研究所(以下,理研)は「富岳を優先的・試行的に利用する」目的で,臨時の課題募集を開始した。採択されたプロジェクトには治療薬開発やウイルス構造の解析などといったテーマと並び,今回紹介する「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」がある。
このプロジェクトは研究の代表・坪倉誠教授の所属する理研および神戸大学のほか,豊橋技術科学大学,京都工芸繊維大学,大阪大学,東京工業大学,九州大学,ダイキン,シンガポール国立大学と当社が参画。当社はとくに室内環境シミュレーションに関する分野で,技術協力ならびに知見を提供した。
目に見えないウイルスを「可視化」
この研究は,熱流体解析の手法を用いて,ウイルス飛沫の飛散,拡散状況について高精度かつ大規模なシミュレーションを行う。ウイルス飛沫が口から出て徐々に蒸発し,壁や人に付着するなどの様子を,富岳の能力を活用することで,飛沫の大きさ別に詳細かつ非常にたくさんのケースを調べることができる。
まず,会話や歌,咳をする際,マスクを着用する・しないときのマスク前後の飛沫数や圧力差を実験で計測し,そのデータに基づいて,さまざまな場面を想定したシミュレーションが行われた。具体的には,学校教室,オフィス,病室や音楽ホールから,電車,タクシー,航空機などの公共交通機関,カラオケボックスや飲食店,屋外でのバーベキューにまで及ぶ。
これらの結果は,シミュレーション映像として「可視化」して公表され,マスコミなどを通じて大きく報じられてきた。ウェブサイト上でも自由に閲覧,データのダウンロードができるため,国や企業,市民まで関心は高く,すでにダウンロード数は延べ400件以上にのぼっている。
このシミュレーション結果を活かして設計されたフェイスシールドが開発されたり,内閣官房や文部科学省,国土交通省と連携して感染対策のガイドラインの策定にも参照されたりなど,社会に幅広く知見が活用されている。