ホーム > KAJIMAダイジェスト > November 2021:特集 次世代の担い手確保 > 対談:魅力ある建設業をつくるために

対談:魅力ある建設業をつくるために

国土交通省の大澤一夫大臣官房審議官と当社の本多敦郎安全環境部長が,
次世代の担い手確保に関して,建設業が抱える構造的な問題や当社の取組みについて対談した。

写真

大澤一夫(おおさわ かずお)

国土交通省 大臣官房審議官
(不動産・建設経済局担当)
1966年生まれ。1991年建設省入省。
中部地方整備局建政部長,総合政策局官民連携政策課長,
土地・建設産業局不動産市場整備課長,
大臣官房参事官(グローバル戦略担当),
不動産・建設経済局総務課長を経て,2021年7月より現職

写真

本多敦郎(ほんだ あつろう)

安全環境部長

建設業を取り巻く現状と課題

本多

国交省では近年,技能者の処遇改善を手段として,次世代の担い手確保を目的とした施策を強力に進めています。まず,その背景や動機についてお教えいただけますか。

大澤

建設業の就業者数は,1960年以降の50年間は右肩上がりでしたが,日本の人口が減少し始めた2010年以降も産業が発展していくために,担い手をどのように確保したらいいかという大きな課題を抱えています。建設業が持続可能な魅力ある産業となり,若い人たちに入りたいと思ってもらうために業界全体でどう取り組むかが非常に重要な課題になっていると,近年我々も感じています。

本多

これから人口減少が進んでいく中,建設業に限らず,受入れ側の各業界からすると,当然に人材の獲得競争が厳しくなってきますが,どのようにお考えですか。

大澤

昔と比べると職種も増えて,就職先の選択肢が増えました。都市をつくる社会インフラを担う建設業は重要な産業ですが,どのようにして魅力を感じて入職してもらい,生産性向上に結びつけていくのか,そして,その時の人づくりがどうあるべきなのかが大事だと考えています。

処遇改善に向けた取組み

本多

国交省は処遇改善に向けた取組みについて,社会保険加入の事実上の義務化を皮切りに,計画的・継続的に諸施策を展開していますが,具体的な取組みをいくつかご紹介いただけますか。

大澤

労務単価の見直しのほか,現在は建設キャリアアップシステム(以下,CCUS)の導入に力を入れています。建設業には元請と下請の関係があって,その生産工程の中で実際どのようなモノや人が働いているのか,量と質を見える化して把握していくことが生産性を上げることにつながると考えています。そのような動きの中で,CCUSは働き方改革や処遇改善を目指し,元請と下請のパートナーシップをより良いものにしていくためのツールとして導入したものです。

本多

CCUSについては,現在登録者が70万人を超えたと聞いています。CCUSによって建設業の見える化が進むということは当然あるべき姿ですが,雇用している事業者からすると抵抗感があったと思います。国交省としては,どのように説得して理解を求めてきたのでしょうか。

大澤

全ての事業者がこの政策に賛成ではないと思っています。顔馴染み同士で仕事をしていると改めてCCUSを使う必要はないと感じている人もいます。CCUSは大手の元請の現場だけではなく,全国に広めていくために職種や地域など現場に合わせてフレキシブルに,運用可能なものにする必要があります。モデル事業となる現場でCCUSを試行しているのが今の段階ですので,引き続き,丁寧に各関係者の理解を得ていく必要があると思っています。いろいろな構造改革に対応していくものでもありますので,地に足をつけて着実に進めていきたいと考えています。

建設業の本質的な問題の解決

本多

国交省の最近の政策を拝見すると,技能者の評価や見える化,レベル別賃金といった施策を次々と出されていて,これからの建設業は良い方向に変化していくとの期待感を持っています。現在70万人のCCUSカードの保有者を,これから300万人に近づけていく必要があるのですが,技能者がCCUSカードを継続的に持ち続けるためのポイントをどのようにお考えでしょうか。

大澤

技能者にカードを持ってもらうためのメリット付けをする必要があると考えています。例えば,各種の資格者証との一体化や,一部で始まっている建退共制度の電子申請との連携など,実際に技能者側に立ったメリットについて保有者の声を現在実施中のモデル事業などで拾い上げていくべきで,民間と一体になって進めていきたいです。

本多

中長期的な取組みと直近の取組みとを連動させて同時並行で動かしていくということですね。技能者に対するメリット付けということでは,国交省が打ち出して具体化しようとしているレベル別賃金がありますが,今後どのような取組みをしていくか教えていただけますか。

大澤

できるところから進めていくのが良いと考えています。実際に働いている方々が納得感を得られるものであるべきで,まさに今その話し合いが始まったと思っています。キャリアパスを見える化して標準化していくにあたり,それを見た若い人たちが自分もやってみようと思えるようなものを皆さんと一緒につくりあげていきたいと思っています。

本多

重層下請構造の件は,協力会社との合意を前提に,当社ではこの3年の間に原則,重層下請を二次までとするということにチャレンジします。国交省から見て,この取組みはどのように感じていますか。

大澤

ゲームチェンジャーと呼べる取組みだと感じていますし,ぜひチャレンジしていただきたいです。鹿島さんがフラッグシップ企業として,建設業界の先頭に立ってCCUSを活用しながら重層下請構造の改革に取り組んでくれることを非常に心強く思っています。

図版

鹿島の方針・施策に対する
評価・期待

本多

当社では国交省の政策,日建連の考え方とも連動して,次世代の担い手確保に向けた様々な施策に邁進しているところですが,その中の2点について評価をいただければと思います。1つめは,今年4月に開設した「鹿島パートナーカレッジ」です。今後も当社と取引を続けてほしい協力会社を対象に“マネジメントコース”と“テクニカルコース”を設置しました。“マネジメントコース”は将来の経営幹部になる方々,“テクニカルコース”は将来の鹿島マイスターになる方々を事業主と一緒に当社が育てていこうという取組みです。

大澤

素晴らしい取組みですね。CCUSも今は現場の実績などに留まっていますが,教育機関との連携も進めていきたいと考えています。建設業に携わる方々をいろいろな角度からつくっていくという意味ではOJTもありますが,全国には訓練センターもありますので一体となって人づくりを進めていくことは重要だと考えています。

本多

もう1つ,当社は7年ほど前から,自衛隊を退官される方を対象に,協力会社とグループ会社に入職してもらうことを目的とした採用活動も行っており,これまでに200人近くが入職し,現場で活躍されています。当社は全国で行われる企業説明会に同席・紹介するなど,主要な協力会社をバックアップする体制をとっており,引き続き支援していきたいと思っています。

大澤

私は警察への出向時,警護実施に参画したことがあります。全国から警察官が集まって各現場で警護をするのですが,現場では予期せぬことが起きたりします。建設業の現場も同様だと思いますが,それを上手くまとめて調整しながら進めるという点では,自衛官時代の経験が建設業の現場でも活かせるのではないでしょうか。建設業に携わる人材を確保するためのこういった鹿島さんの取組みは非常に素晴らしいことですね。

本多

たくさんの高い評価と期待の言葉をいただき,ありがとうございました。今後も,国交省と我々建設業が力を合わせながら,次世代の担い手確保に向けて良い効果をもたらしていければと思います。

(2021年9月13日 鹿島本社にて)

ContentsNovember 2021

ホーム > KAJIMAダイジェスト > November 2021:特集 次世代の担い手確保 > 対談:魅力ある建設業をつくるために

ページの先頭へ