技術最前線
コーラルネット®を用いた
サンゴ再生技術


地球環境・バイオグループ
サンゴ礁保全への取り組み
鹿島は気候変動を含む環境課題への対応をマテリアリティの一つとして定めています。サンゴ礁の保全・再生は最も重要な環境課題の一つです。
鹿島は総合建設業の中でもいち早くサンゴに関する研究開発に取り組んできました。これまで20年以上にわたるサンゴ再生技術の実証実験の実績とノウハウを有しています。鹿島のサンゴ再生技術の要である人工基盤「コーラルネット」を2003年から沖縄海域を中心に適用し、従来の技術よりも効果的なサンゴ礁の回復を実現しています。コーラルネットの網目状構造や基盤を海底面から10cm程度底上げする構造は、サンゴのストレスとなる赤土などの細粒分の堆積を軽減するとともに、サンゴの生育に必要となる波や流れ、光を妨げないため、サンゴの自然着生と成長を促します。
また、サンゴの幼生は基盤の裏側に着生するため、オニヒトデなどからの捕食を免れます。コーラルネットなど、サンゴの保全・再生に向けた技術を効果的に導入するためには、現地観測や海洋シミュレーション技術を用いて海洋環境を時空間的に十分に把握することが重要となります。
海洋シミュレーション技術の活用によって広範囲かつ長期間にわたる海水の流れや温度、塩分、水質などの変化を定量的に解析することが可能となります。その結果を基に、対象海域の環境条件に適したサンゴの再生手法と実施場所を選定することが可能となります。
2023年度からは東南アジアを対象にしたサンゴ礁再生事業へ鹿島が参画しています。
今後は日本のみならず世界中のサンゴ礁再生事業への適用を目指して研究開発を行っていきます。
ここがポイント!
コーラルネット(サンゴの幼生が着生する基盤)

コーラルネットの機能模式図

自然分解型コーラルネット(プラスチック製)
サンゴ礁生態系の保全に配慮して開発されたものであり、約10年で自然分解したのち着生したサンゴだけが残る仕組みです。

耐久型コーラルネット(ステンレス製)
港湾などの構造物と一体化させて活用するものであり、強い波や流れのある環境でも安定した設置が可能です。
サンゴの生息に適した場所を数値シミュレーションで評価し、コーラルネットを設置
台風通過時の海水温低下と強い海流の発生。
色:水温、白コンター:気圧、ベクトル:流速。
沖縄本島におけるサンゴ生息可能水深(50m以浅)の海洋環境変化によるサンゴ礁の石灰化速度の分布。日中は光合成が活発なため、呼吸や石灰化も促進されます。一方、光合成が起こらない夜間はサンゴの活動が弱まります。
紹介映像
コ ーラルネットによるサンゴ再生
サンゴ礁保全活動、港湾でのサンゴの増殖基盤として活用実績のあるコーラルネット。砂泥の堆積や外敵のオニヒトデによる食害を防ぎ、サンゴの良好な生育環境をつくります。
適用が期待される分野
- 環境保全
- リゾート開発
- 自然を基盤とした解決策(NbS)
学会論文
実績-
- 山木克則ほか,港内のサンゴ生息地適性指標モデル(HSIモデル)の開発,土木学会論文集B2(海岸工学),
Vol.69,No.2,I_1231_I_1235,2013年 - 山木克則ほか,那覇港内における網状人工基盤を用いたサンゴ群集の再生,土木学会論文集B2(海岸工学),
Vol.70,No.2,I_1171_I_1175,2014年 - 山木克則ほか,コーラルネットを用いた那覇港内におけるサンゴ群集の創生,土木学会論文集B3(海洋開発),
Vol.73,No.2,I_875_I_880,2017年 - 上平雄基ほか,領域海洋モデルを用いたサンゴ礁への台風接近時の高潮・波浪影響について,
日本サンゴ礁学会第26回会講演要旨集,pp.53-54,2023年
- 山木克則ほか,港内のサンゴ生息地適性指標モデル(HSIモデル)の開発,土木学会論文集B2(海岸工学),
適用実績
港湾への適用
―沖縄県那覇港―
期間:2011年~ 場所:沖縄県那覇港
那覇港内は陸から流入する赤土などの細粒分が堆積しやすいため、サンゴの育成には厳しい環境です。2011年の春にステンレス製耐久型コーラルネットを那覇港に導入し10年以上継続的にモニタリングを実施しています。その結果、元々サンゴがほとんど成育していない場所でも10種類以上のサンゴ群集が拡大しました。2021年には導入したコーラルネット基盤の約4倍の面積にまで拡大している地点もあります。

現地の状況
設置時

耐久型コーラルネットを設置

港湾内の消波ブロックに設置されたコーラルネット
5年後

5年で多様なサンゴ群集が自然再生
10年後

10年でサンゴが拡大

那覇港でのコーラルネットと現地ブロックのサンゴ被度(基盤に占めるサンゴの割合)の比較
適用実績
台風で破壊されたサンゴ礁への適用
期間:2010年~ 場所:沖縄県慶良間諸島
慶良間諸島では、地元ダイバーと協力し、自然海域でのコーラルネットの有効性に関する実証実験を実施中です。近年、慶良間諸島では大型の台風によって枝サンゴの破壊が問題になっています。そこで、枝サンゴが崩壊した海域にコーラルネットを設置しました。その結果、コーラルネットを設置した場所では、サンゴ群集の急速な回復が確認できました。


台風前(2011年)

台風直撃で枝サンゴが崩壊(2012年)
現地の状況
設置時

枝サンゴ崩壊エリアに自然分解型コーラルネットを設置(2012年)
4年後

4年間でサンゴが自然再生(2016年)
9年後

9年でサンゴ礁が拡大(2021年)
10年後

サンゴの産卵(2022年)
適用実績
アジア開発銀行プロジェクトへの適用
期間:2023年~ 場所:フィリピン、タンガラン沿岸
太平洋とインド洋の間に位置するコーラルトライアングルは、海洋生物多様性の世界的な中心地であり、地球規模の環境保護が必要な海域です。
鹿島は東京工業大学(東工大)、フィリピン大学ビサヤ校(UPV)等と協力し、コーラルトライアングルに位置するフィリピンのタンガランでサンゴ保全・再生プロジェクト(InCORE)を立ち上げました。

InCORE(Integrated Aproach for Coral Reef Conservation and Rehabiitation) プロジェクト
InCOREプロジェクトは、環境アセスメント、サンゴ礁再生事業の実施、モニタリングによる効果検証を含む統合的なアプローチを提案・実施するものです。
本プロジェクトはアジア開発銀行(ADB)によるサンゴ保全・再生に関する国際公募事業「Technology Innovation Challenge for Healthy Oceans -Restore and Protect Coral Reefs-」に採択されたものです。
現地の状況
現地調査
現地政府とUPVの協力のもと、生態調査を実施。

現地住民とともに観測を実施

スポットチェック法によるサンゴ礁調査
数値シミュレーション
東工大による沿岸環境数値シミュレーションでは、海の流れ、水温、塩分、水質などの環境因子の空間分布や時間変化を解析・予測することができます。コーラルネットは、このような数値シミュレーションと現地調査による環境評価の結果をもとに設置されています。

サンゴ礁を取り巻く環境を陸域からの影響を含めてシミュレーション技術により解析