割れ目内の地下水流動・物質移行特性評価技術
「LT-FLOW」
チャンネルネットワークモデルを用いて地下水流動や物質移行特性を評価
岩盤関連工事における地下水問題に適切に対処するためには、岩盤の主要な水みちである割れ目ネットワークを踏まえた地下水挙動の評価が重要です。特に,ダムにおける基礎処理の品質確保、高レベル放射性廃棄物の地層処分における地下水流動評価、処分場施工時における地下水制御とその影響評価においては、割れ目を考慮した地下水流動に加え物質移行特性を評価する技術が必要です。
これに対応するため、岩盤の割れ目をチャンネルネットワークとしてモデル化し、3次元の地下水流動や物質移行特性を評価する解析プログラムLT-FLOW(Lattice Transportation Flow)を開発しました。
岩盤構造物における割れ目を介した地下水流動のモデル化
- キーワード
- 地下水流動、物質移行、チャンネルネットワーク、割れ目ネットワーク、放射性廃棄物処分、ダム基礎処理
チャンネルネットワークモデル
地下水流動・物質移行特性を評価する解析プログラムLT-FLOWでは、初めにボーリング孔や坑道壁面観察といった調査結果から得られる対象岩盤の割れ目の幾何学的特性を基に、割れ目ネットワークを構築します。その割れ目ネットワークを1次元のパイプを組み合わせた管路網(チャンネルネットワーク)に変換し、透水試験等から得られる水理特性を基に水理地質構造のモデル化を行います。このモデルを用いて有限差分法で解析を行うのがLT-FLOWです。
LT-FLOWにおける割れ目分布のチャンネルネットワークへのモデル化
LT-FLOWの特徴
LT-FLOWはプログラム改良が容易なため、ニーズに応じて機能を追加できるという特徴を持っています。
これまでに、①数十万枚の割れ目に対応できる解析速度の高度化、②解析領域の拡大、③原位置透水試験再現解析による水理構造モデル化、④トンネル等の岩盤構造物をモデル化、といった機能を付加しています。また、物質移行解析においては、⑤移流による物質移行解析に加え、分散機能、収着機能、核種崩壊機能、⑥多様な初期条件(連続的/断続的な仮想粒子投入)に対応するための解析プログラム、を開発し追加しています。
解析評価例
割れ目ネットワーク内にトンネルを設定し、トンネルと交差する割れ目からの湧水量を解析することが可能です。確率論的に多くの割れ目モデルを作成し、調査により得られた決定論的割れ目をこれに統合させることにより、割れ目を考慮した坑道湧水量評価を行うことができます。
トンネルへの湧水量の解析結果
地下水流動に従って流れる仮想粒子の位置を追跡するパーティクルトラッキングという手法を用いることで、割れ目を介した汚染物質の移動やグラウト浸透の状態が把握できます。汚染物質の移行時間や移行距離が計算できるので、汚染の広がりの定量的な評価が可能です。また、ボーリング孔に注入したグラウトの浸透範囲が計算できるので、グラウトによる透水性の改良効果の評価が可能になります。
グラウト浸透シミュレーション結果
学会論文発表実績
- “Hydraulic Characterization of Fractures for DFN Modeling of Dam Foundation Rock Mass”,the 3rd International Discrete Fracture Network Engineering Conference,2022年
- “Application of discrete fracture network model to evaluation of groundwater inflow control around disposal tunnels”,the 2nd International Discrete Fracture Network Engineering Conference,2018年
- 「地下坑道での調査データに基づく坑道周辺領域における水理地質構造モデルの構築(その2)」,第42回岩盤力学に関するシンポジウム,2014年
- 「原位置調査に基づく割目のモデル化と地下水中の物質移行手法の開発 -割目発生プログラムの作成とDonChanモデルの機能追加-」,鹿島技術研究所年報,第58号,2010年
- 「移流分散効果の評価に関する割れ目ネットワークモデル解析コードの比較検証」,第38回岩盤力学に関するシンポジウム,2009年