耐久性評価ツール
「LIFE D.N.A.®」
コンクリート中の劣化因子移動や化学反応を予測する解析ソフト
近年、コンクリート構造物の耐久性向上のニーズが高まり、100年あるいは200年といった耐用年数を要求されるケースがあります。しかし、100年以上の長期にわたる耐久性を、これまでのコンクリート構造物の実績や経験のみで説明することは極めて困難です。そこで、鹿島では解析的手法によりコンクリートの耐久性を評価する研究に取り組み、耐久性評価に重要な劣化因子のコンクリート内での移動を把握する手法について検討してきました。これらの研究成果をシステムとして取りまとめ、コンクリート内の劣化因子の移動を精度良く解析する、「LIFE D.N.A.®(Diffusion aNd Advection)」を開発しました。
平成15年度土木学会 吉田賞
2004年日本コンクリート工学会 論文賞
2021年度セメント協会論文賞
構造物に生じた劣化の一例
- キーワード
- コンクリート、耐久性、物質移行、劣化因子、溶脱、中性化、塩害、拡散係数、空隙率
技術の詳細
LIFE D.N.A.は、コンクリートの耐久性を評価するために重要となる劣化因子(イオン、水分など)のコンクリート内での移動を把握することで、コンクリートの耐久性を高い精度で評価するシステムです。また、劣化因子の拡散・移流といった基本的な物質移動のみでなく、劣化因子の移動速度に関連するコンクリート内の化学反応も考慮しています。これにより、コンクリート内の劣化因子の移動を精度良く解析することができます。
LIFE D.N.A.では、塩分浸透などのイオンの移流拡散解析を行う「一般解析」、中性化の解析を行う「中性化解析」、Ca溶脱の解析を行う「溶脱解析」、複数イオンの移動を考慮した解析を行う「多種イオン溶脱解析」、硫酸による劣化の解析を行う「硫酸解析」、硫酸塩による劣化の解析を行う「硫酸塩解析」の6種類について、1次元および2次元で解析することができます。それぞれの要素ごとに拡散係数、初期含有量、境界条件を設けることが可能です。境界条件は、時間依存性を考慮することができるので、例えば補修後の塩分浸透性を解析することが可能です。
これらの機能により、新設構造物については、構造物の設計段階で、材料、構造物形状、初期欠陥の有無を考慮した耐久性評価を行うことができます。また、既設構造物については、劣化調査結果(欠陥、構造物形状、劣化程度)に基づき、補修方法、時期、材料の評価・選定を行うことができます。
入力画面の例
浸透性吸水防止材「マジカルリペラー®」による塩分浸透抑制解析の事例
特長・メリットココがポイント
ひび割れを有するコンクリートについて評価可能
コンクリートにひび割れが入ることで、劣化因子のコンクリート中への浸透が早くなり、構造物は早期に劣化します。LIFE D.N.A.では、このようなひび割れを有するコンクリートの耐久性を評価することができます。下図では、0.5mmのひび割れを有するコンクリートの塩害に対する照査例を示しています。
- ひび割れの存在によって、塩化物イオンが早期に鉄筋位置まで侵入することが分かります。
- 他にも、LIFE D.N.A.では、表面被覆された場合など、実際の環境に応じたコンクリートの耐久性評価が可能です。
ひび割れを有するコンクリートの塩害照査例
Caの溶脱についても精度良く評価可能
ダム、河川の橋脚、水道施設のように水と接するコンクリートからは、長期的にその主成分であるCaが溶け出してしまう、「溶脱」と呼ばれる現象が生じます。LIFE D.N.A.では、この「溶脱」に対する評価も可能です。
LIFE D.N.A.の解析精度を検証するため、実際に70年間供用された構造物についてCaの溶脱を調査し、LIFE D.N.A.による解析値と比較しました。
- 実際の環境を考慮した解析を実施した結果、解析値と実測値は精度良く合致することが確認されました。
実構造物の調査結果との比較(Caの溶脱)
放射性廃棄物処分施設の1,000年以上の超長期健全性を評価
地下深くに建設されることが想定されている放射性廃棄物の処分施設には、1,000年~10,000年以上の超長期に渡る評価が求められます。LIFE D.N.A.では、超長期に渡る各種イオンの移動を評価可能です。
- LIFE D.N.A.によって、想定される処分施設形態を模擬したシミュレーションを行い、処分施設周辺岩盤の高pH化が起こる範囲を推定しました。
対象構造物のモデル全体図
200年後、400年後の施設周辺のpH分布
(公財)原子力環境整備促進・資金管理センター平成31年度低レベル放射性廃棄物の処分に関する技術開発事業地下空洞型処分施設機能確認試験報告書をもとに作成
適用実績
LIFE D.N.A.は、新設・既設構造物を併せると、これまでに100件以上の構造物の塩害、中性化、溶脱に関する耐久性評価に適用されています。
学会論文発表実績
- 「コンクリート中の各種イオン移動と化学反応のモデル化」,セメント・コンクリート論文集,Vol.74,No.1,2021年
- 「セメント系材料からの成分溶脱解析における水和物の沈殿と境界条件の影響」,コンクリート工学年次論文集,Vol.31,No.1,2009年
- “Modeling of leaching from cementitious materials used in underground environment”,Applied Clay Science,Vol.26,2004年
- 「カルシウムイオンの溶出に伴うコンクリートの変質に関する実態調査と解析的評価」,土木学会論文集 Ⅴ,Vol.54,2002年
- 「モルタルからのCa溶出およびそれに伴う変質の長期予測に関する基礎的研究」,土木学会論文集 Ⅴ,Vol.45,1999年