日本100名城「白河小峰城」の石垣を元の姿に
福島県白河市にある小峰城跡。奥州の関門として名高く、国の史跡に指定されています。また、「日本100名城」にも選ばれ、観光客や地元の皆さんに親しまれていました。しかし、東日本大震災により、石垣が10か所に亘って崩落しました。鹿島と地元・白河市の鈴木建設の共同企業体は、10か所の崩落した石垣と、崩落は免れたものの修復が必要な4か所の石垣、計14か所の石垣復旧工事を2013年から行い、工事は2018年に完了しました。
小峰城跡石垣復旧工事
- 発注者
- 白河市
- 工事場所
- 福島県白河市郭内
- 施工者
- 鹿島・鈴木特定建設工事共同企業体
- 事業内容
- 東日本大震災で崩落した石垣10か所と修復が必要な4か所を合わせ14か所の石垣復旧工事
- 工事内容
- うち崩落箇所9か所と修復が必要な箇所3か所を受注 復旧面積2,675m2
- 工期
- 2013年9月〜2018年7月
完了のご報告
白河のシンボル・小峰城の石垣が約5年で復旧
小峰城は、2010年に国の史跡に指定され、また、日本100名城の1つとして、多くの観光客に親しまれていましたが、2011年の東日本大震災により石垣が10か所にわたって崩落しました。東日本大震災における文化財の被害としては最大のものとなりました。そこで崩落した石垣とともに、孕みが生じた石垣について2013年から復旧工事が開始されました。
崩落した石ひとつひとつに番号をふり、文化財としての調査を行い「石材カルテ」を作成。崩落前の写真や資料を参考に、ひとつひとつ元あった位置に戻していきます。崩落した石は7,000個あまり。文化財であるため、石垣が築かれた江戸時代の工法に忠実に復元しました。復旧工事開始から約5年。約2,600m2に及ぶ石垣復旧工事が完了しました。
工事を担当した小杉禎一所長は「今回の工事にあたり、城郭石垣を手掛けたことのある石工を全国から集めて施工を行いました。地元の方や観光客から『綺麗に直りましたね』と声をかけられ、白河のシンボルである小峰城の長い歴史の1ページに携わることができたことを実感し、光栄に思います。今回修復した石垣が白河市民の心の拠り所として見る人を癒し、これから先も長く引き継がれていくことを願っています」と語っています。
奥州の要所、小峰城
小峰城は南北朝時代、14世紀中頃に結城親朝が「小峰ヶ岡」と呼ばれたこの地に城を構えたことが始まりとされ、江戸時代、初代白河藩主・丹羽長重が「奥州の押え」にふさわしい石垣を多用した梯郭式の平山城を完成させました。その後、21代もの大名がこの小峰城を居城としていましたが、戊辰戦争で大半を焼失し、落城したと言われています。
1991年に三重櫓、1994年に前御門が江戸時代の絵図に基づき木造にて忠実に復元され、2010年に「小峰城跡」として国の史跡に指定されました。
震災により、10か所にわたり石垣が崩落
小峰城跡は、現在延長約2kmにも及ぶ石垣が残されていますが、2011年3月11日の東日本大震災により、本丸南面の石垣が幅約45mにわたって崩落したのをはじめ、10か所の石垣が崩落しました。幸い、崩落による人的被害はありませんでしたが、白河市のシンボルである小峰城跡の石垣が無残に崩れた姿に、市民の落胆は大きいものでした。
白河市では、崩落した10か所の石垣と孕みなどにより復旧が必要な4か所の石垣の復旧工事を2013年から行っています。鹿島・鈴木特定建設工事共同企業体は、1期工事〜6期工事に分けて工事を行いました。
崩れた約7,000個の石垣を元の位置に
小峰城跡では、10か所、面積にして約1,600m2あまりの石垣が崩落しました。これほどまでに大きな面積が崩落した事例は他にありません。通常の修復工事では、綿密に調査を行った後に解体し、再度石積みを行いますが、今回は震災で崩落したため、通常行う調査なしで復旧工事を行わなければなりません。手がかりとなるのは崩落前に撮影された写真や書物のみです。
崩落した石垣は一つずつクレーンで移動し、石材ひとつひとつに通し番号を振り、仮置きした後、スケールを入れた正面写真を撮影します。写真の縮尺を合わせたうえで石の輪郭をCADで描き、崩落前の写真と照合しながら石垣の施工図を作成します。崩落した石材は全部で約7,000個にも及びます。ひとつひとつ破損などがないか確認し、破損している石は新しい石材を加工したものに置き換えます。
伝統的な石積み技術を基本として
小峰城跡の石垣は国の史跡に指定されているため、原則的には、元あった石を、元の場所に、造られた当時の手法を用いて復旧することが求められます。しかし、地震に強い石垣とするため、盛土部に石灰による改良土を用いたり、一部についてのみすべり止めのシート状補強材を挿入しました。
Column 石垣のつくりかた
石垣は表面の石の後ろに、裏込石(栗石)と呼ばれる10~20cm程度の大きさの丸みを帯びた石を詰め、その後ろに盛土を設置します。表面の石は背面側が細くなっており、石どうしの隙間には飼石と呼ばれる石を詰めて固定しています。
工事の様子
2018年2月
2016年6月から始まった5期工事が完了し、最終となる6期工事を施工しています。帯曲輪北面および藤門の石積みは完了し、月見櫓の石積みを行っています。4月からは仮囲いが取れ、石垣と桜のコラボレーションが楽しめそうです。
Column 全国の石垣の専門家が集結 調査研究会が開催
2018年1月18日~20日までの3日間、第15回全国城跡等石垣整備調査研究会が福島県白河市の白河文化交流館コミネスで開かれました。「全国城跡等石垣整備調査研究会」は石垣整備を担う全国の行政担当者、設計監理技術者、技能者等が一堂に会して、各地の様々な事例を検討し、文化財石垣の適切な保存活用のあり方等について理解を深めることを目的とする研究会で、全国各地の城郭所在地で毎年開催されています。第15回を迎える今回は、東日本大震災における石垣復旧工事が続いている小峰城跡のある白河市で開催されました。
研究会のプログラム3日目には小峰城跡石垣復旧工事の現地視察が行われ、約200名の石垣の専門家が現場を訪れました。参加者は石垣の復旧工事現場を熱心に見学し、工事担当者に質問を投げかけていました。
2017年10月
2017年7月から6期工事が開始されました。6期工事では、5期工事で解体工事が行われた帯曲輪北面と月見櫓の復旧工事が行われています。また、6期工事では、新たに藤門の解体工事並びに復旧工事が行われます。2018年3月の全体竣工に向けて工事を進めていきます。
2016年9月
2016年7月に5期工事が開始されました。5期工事では、4期工事に続いて本丸西面北面の石垣上部の復旧工事と、帯曲輪北面及び月見櫓の解体が行われます。現在は主に、竹之丸の復旧、本丸西面北面の復旧が行われています。
現場では、定期的にドローンによる撮影を行い、上空から工事の進捗を撮影しています。地上からはわかりにくい石垣背面の盛土や裏込め石の様子などもよくわかる写真となっています。
Column 復興への思いを裏込め石に 石垣イベント開催
2016年8月11日、白河市が主催した「小峰城跡石垣イベント」が開催されました。イベントでは、参加者に1口200円の小峰城城郭復元基金をお願いし、復興への思いを書いた裏込め石を、竹之丸の背面に置きました。夏休み期間中ということもあり、イベントには約500名が訪れ、そのうち約300名が復興への思いを石に託しました。メッセージ入りの裏込め石は復旧が進む小峰城跡石垣の一部となります。
また、現場では、月に1回、石垣の積み上げ作業を行っている竹之丸南面などの現場を一般公開しています。普段見ることのできない石垣の裏側の様子なども見ることができます。今後の予定は以下の通りです。
開催日:2016年9月4日(日)、10月2日(日)、11月6日(日)、12月4日(日)
公開時間:午前10時~午後3時
2015年8月
2013年9月からの1期工事と2期工事により、本丸南面の修復が完了しました。それに伴って、見学が中止されていた三重櫓と前御門の公開が2015年4月に再開されました。
3期工事と4期工事では竹之丸の修復と、
の石垣修復等が行われています。